ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

ページ
11/80

このページは 高分子 POLYMERS 62巻12月号 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

高分子 POLYMERS 62巻12月号

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

高分子 POLYMERS 62巻12月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集素敵な高分子のギフト―第2弾―GELを使った小さなヒット商品の開発背景附柴裕之(株)GEL-Design/(株)Saovn de Siesta[060-0033]札幌市中央区北3条東5丁目335番地2常務取締役専門は高分子化学,会社経営.tsuke@gel-design.co.jphttp://gel-design.co.jp[060-0061]札幌市中央区南1条西15丁目1-319-802代表取締役tsuke@savondesiesta.jphttp://at-siesta.com毎年、夏になると雑誌やTVで話題になり、全国の東急ハンズやLOFTなどの大手雑貨店や百貨店等で、お弁当箱部門の売上第1位となる密かなヒット商品『GEL-COOL(ジェルクール)』。2006年3月末の発売開始以来、6シーズンで累積60万個以上売れたこのお弁当箱の人気の秘密は、フタに仕込んだ保冷GEL。思わぬ主婦の一言から誕生した、北海道大学発のベンチャー企業GEL-Design(ジェルデザイン)の商品第一号だった。無名のスタートアップ企業が名刺代わりに作った初めての商品としては大成功、グッドデザイン賞をはじめ北海道の新製品開発賞や札幌市からの認証(札幌スタイル)、理系研究者向けビジネスコンテストのグランプリ受賞で1500万円分の副賞をいただくきっかけにもなった。さらに、バイヤーからは単一ブランドのお弁当箱としては異例のヒット商品という評価をいただき、東京大学大学院や京都産業大学での研究対象となり、その研究成果は学術論文や書籍1)でも紹介されている。筆者らがこの商品を開発したGEL-Designを設立したのは2004年9月。ちょうど大学発のベンチャー設立ブームのピーク時と重なっている。当時の私は、大学院を卒業し、バイオベンチャーとしてJASDAQに上場していた医学生物学研究所に就職して2年目。しかし、会社に個人的なわがままを認めてもらい、卒業した研究室で引き続き修士論文のテーマの延長の研究に没頭し、1年半を経ていた。その頃、大学は法人化し、知財部やTLO(Technology Licensing Organization;技術移転機関)ができ、大学の研究成果の実用化や事業化に向かう動きが社会的に推奨されていた。私も企業研究者としては将来の収益をいかに生み出すかという課題を抱え、若干悩みながら、できれば自分が携わった研究成果から収益を生み出す事業を創出したいと考え、ビジネスプランを熱心に練っていた。その試行錯誤の結果、研究室の先生方や会社に背中を押していただくことができ、会社設立が実現した。会社名『GEL-Design』は、さまざまな用途に応じて『GEL』をデザインすること、そして、それによって生み出されたプロダクトによって、人々の暮らしをよりよくデザインしていくことを目指して命名された。大学と共同出願した特許出願を活用した事業展開を大きな目標にして、当座はメーカーからの開発を受託して稼ぐ計画でスタートした、いわゆる、大学発ベンチャー。GEL分野に特化した開発型の企業だった。図1雑誌『日経デザイン』に紹介された球形のGELしかしながら、会社経営というのはなかなか思ったとおりにはいかないもの。時代の波に乗った取り組みであったことや、30歳そこそこの若い技術系ベンチャー経営者が珍しかったことから、メディアからはよく取り上げられ、助成金の獲得や大手メーカーとの取引開始などで周囲からの評価は上々ではあった。一方で、商談がまとまりそうな開発案件は難易度が高く、微々たる金額であってもかなり背伸びをして受注をしなければならなかった。もちろん、開発に成功すればそれなりの報酬が期待できるはずだったが、それは何年も先の話。活動資金はすぐに心細くなっていく。さらに、大学院時代の同期2名(うち1名は妻)と先輩1名が加わり、従業員も採用し、機動力と心強さが増したのと反比例して、支出はどんどん嵩み、資金ショートのカウントダウンの加速度は増していった。どれだけ目標は高くても、活動資金が尽きれば会社は倒産する。運命をともにしてくれた仲間を路頭に迷わすことだけは避けなければと強く思いつつ、私たちは資金調達に走りまわり、預金残高を眺めては冷や汗をかき、ハードワークと眠れぬ夜が重なり胃を痛めていた。GEL-COOLが誕生したのはちょうどそんな時期だ。高分子62巻12月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan727