ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集素敵な高分子のギフト―第2弾―環境負荷低減を実現する高機能型エコマテリアル:ポリグリコール酸の開発とシェールガス掘削用途への応用佐藤浩幸(株)クレハPGA研究所[974-8686]いわき市錦町落合16所長,工学博士.専門は高分子化学,高分子合成.sato-hiroyuki@kureha.co.jpwww.kureha.co.jp1.はじめにポリグリコール酸(以下、PGAと略記)は、図1に示すように、側鎖を有しない単純な構造の脂肪族ポリエステルである。PGAは高密度で結晶性が高いので、その機械強度は市販のほかの樹脂と比較して最高レベルを示す。また、PGAのガスバリア性は、その分子構造により自由体積が小さく、既存樹脂中で最高レベルを有している。PGAは、主鎖のエステル基の加水分解により低分子量化した後に、その低分子量物が代謝される生分解の経路を経て最終的に二酸化炭素と水に分解する。PGAの開発の歴史は古く、1930年代にナイロンの発明者として知られるW. H. Carothersにより初めて合成された。その当時は、ほかの合成ポリマーと比較して熱や水に不安定で分解しやすかったため高分子量化が困難であり工業化には至らなかった1)。その後、1950年代にPGAの高分子量化の技術が見いだされ、高分子量化PGAが医療用の生体吸収性縫合糸として開発されたが2),3)、現在に至るまで高価な高付加価値製品として小規模に生産販売されているに過ぎなかった。(株)クレハでは、PGAが有する優れた物性に着目し、従来にはない高機能型の生分解性樹脂として新しい用途を開拓できると考え、量産を目指した新規な工業的生産技術の開発に着手し、確立に至った4)。図1PGAの化学構造と特長2.高分子量PGAの製造技術開発PGAの最も単純な合成方法は、グリコール酸の脱水縮合であるが、重合と同時にPGAのヒドロキシ末端の環化反応により環状エステルを生成するため、十分に高分子量化したPGAを得ることは困難である。そこで、PGAオリゴマー(以下、GAOと略記)を中間体として、GAOを解重合して得られるグリコール酸の環状2量体のグリコリド(以下、GLと略記)を開環重合することにより高分子量化PGAを得る方法が見いだされている1)。GLの製造方法は、GAOを加熱して融液とし、解重合反応を進行させ、GAO融液表面から生成物であるGLを揮発させ、捕集する方法が一般的である。しかし、GAO融液は高粘度であり、加熱すると熱分解により重質化などの副反応が起こりやすい。また、揮発したGLは配管内壁に付着すると微量水分で重合し、配管閉塞を起こすことから、この製造方法ではスケールアップによる量産化がきわめて困難であった。この課題に対し、溶媒を用いる解重合法により解決した。すなわち、GAOやGLとの相溶性と蒸気圧や熱安定性を考慮した溶媒を新たに分子設計して合成し、その溶媒にGAOを溶解させることで、反応液の粘度を低下させ副反応を抑制させた。さらに、この溶媒との共留出によりGLの蒸発効率の向上も達成され、GLが高収率で得られるプロセスを実現した。この解重合プロセスとGL中の溶媒除去プロセスを組み合わせることで、高純度のGLが得られる技術を確立した。GLからPGAへの重合は、溶融塊状重合が一般的であるが、重合反応の進行とともに重合物の溶融粘度は高くなり、攪拌や反応容器から内容物の取り出しが困難となるので、これまで生産性が低い小規模スケールでの生産のみ可能であった。この課題に対し、GLの融点と高分子量PGAの融点の間の温度範囲において重合反応を制御するプロセスを見いだした。このプロセスにより、反応初期は溶融状態で連続的に重合反応をある反応率まで進行させた後、このGL/PGA混合物を固体として析出および粉砕し、さらに固相状態で反応を高分子62巻12月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan729