ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集素敵な高分子のギフト―第2弾―可視光応答型光触媒「V-CATR」木村芳夫豊田通商(株)大脇健史(株)豊田中央研究所産業資材部企画G[450-8575]名古屋市中村区名駅4-9-8専門は繊維,生活産業資材.yoshio_kimura@toyota-tsusho.comwww.toyota-tsusho.com/物質変換・触媒酵素研究部無機材料研究室[480-1192]長久手市横道41-1室長,工学博士.専門は光触媒,薄膜ohwaki@mosk.tytlabs.co.jpwww.tytlabs.co.jp/1.はじめに酸化チタンを代表とする光触媒は、光を吸収して、酸化作用を発現し、環境浄化材料として広く利用されている。また、最近では、よく知られているように、光触媒を用いた人工光合成研究が活発化している。豊田中央研究所では、可視光によっても光触媒作用が発現する窒素ドープ酸化チタンを新たに技術開発し1),2)、その材料を、豊田通商にて「V-CATR」と命名して商品化し、2004年から事業として進めてきた。「V-CATR」は可視光環境下で、光触媒の有する酸化作用を利用し、防汚、消臭、抗菌、抗ウイルス等環境浄化材料として利用されている。身の回りの製品への適用例は高分子材料が多く、それらの製品に上記の機能を付与するニーズも多くあり、繊維、フィルムなどへの適用を中心に進めてきた。ここでは、「V-CATR」の紹介とその応用例について紹介する。2.窒素ドープ酸化チタンの技術開発1990年代、東大、TOTO(株)等を中心とした光触媒による親水化の研究開発が注目され3),4)、セルフクリーニング材料として実用化された。さらに、これらを契機として、光触媒の開発ブームがおき、その中で、可視光応答化の研究開発も大きなテーマであった。豊田中央研究所では、1999年これまでになかった酸化チタンの酸素(アニオン)サイトに別種の元素を置換するという新しい概念を考え出し、理論、実験両側面からアプローチした。理論的には、量子力学の第1原理計算により、各種アニオンを酸化チタンの酸素サイトに一部置換したときの電子状態を比較検討し、窒素(N)をドープしたとき、バンドギャップ内の価電子帯の最上部近傍に新たな状態を形成することがわかった。すなわち、N 2p状態が酸素のO 2pと混成しやすい結果、可視光応答となる可能性が最も高いことを予測した。実験的には、スパッタ法で酸化チタンに窒素ドープすることからはじめた。各種条件でのスパッタ成膜と、作製された薄膜の光触媒特性測定とを系統的に実施し、そ図1可視光応答型光触媒「V-CATR」の粉末(左側がV-CATR,右側は酸化チタン粉末)の中で、可視光で光触媒特性が出せそうなことを見いだした。その後、窒素ドープ酸化チタン(TiO 2-x N x)粉末の作製にも成功し、これらについて、色素分解、ガス分解、親水性などさまざまな側面の可視光下での光触媒特性を確認し、新たな概念での可視光応答化を達成することができた。図1には開発した粉末を示す。さらに、2000年代になり、光の弱い環境でも、光触媒機能を発揮したい要望は高まり、さらなる光触媒性能の向上が求められていた。そのような背景の中、NEDOの光触媒に関するプロジェクトが発足し、産学官が連携し、安全性確認、性能向上に関連する技術開発が行われた。豊田中央研究所でも、窒素ドープ酸化チタンをベースに、さらなる性能向上(反応速度の向上)を目指し、遷移金属化合物、または貴金属担持を試みた結果、ガス分解性能をはじめ、抗菌性等も改善された光触媒を開発した5),6)。豊田通商では、この材料を「V-CAT IIR」として、市場投入した。NEDOの第二段の国プロでもWO 3およびTiO 2をベースとした可視光応答型光触媒が開発され7)、市場は競合状態となっている。3.高分子材料への適用可視光応答型光触媒の利用が期待される所は、従来の紫外光型光触媒が利用できない空間で、車室内や室内など、紫外線がほとんどなく、可視光線がある所である。車室内や室内では、シックハウスの原因物質で高分子62巻12月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan733