ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集素敵な高分子のギフト―第2弾―熱膨張耐火材とその応用沼田憲男積水化学工業(株)開発研究所機能材料開発センター[618-0021]大阪府三島郡島本町百山2-1センター長.専門は高分子化学,粘接着材料,耐火材料.numata002@sekisui.comwww.sekisui.co.jp/高分子62巻12月号(2013年)1.熱膨張性耐火材とは1.1はじめに一般に「耐火」というと自然石とかコンクリートといった「燃えない」無機物を想像する読者が多いのではないかと思います。また、耐火建築物とは火災発生時に非損傷性と延焼防止性能を有する建築物ですから、従来は、鉄筋コンクリート造、または適切な被覆をした鉄骨造の建物を指していました。1990年代末の規制緩和の流れの中で、耐火・防火にかかわる仕様規定が変わったことから、「燃える」有機高分子材料であっても要求性能を満たせば耐火用途に使える材料として認められるようになりました1)。熱膨張耐火材フィブロックRは、上記規制緩和を受け、国交省(当時建設省)大臣認定を取得した高分子耐火材料です。通常は薄いシート状ですが、200度以上に加熱されると5~40倍に膨張し、断熱層を形成することによって、熱と火炎を遮断し火災の延焼や建物の倒壊を防止するという機能を発揮します。図1に膨張前後の外観を示します。本材料が厚み方向にのみ膨張していることがわかります。本稿ではいくつかのエピソードを交えてフィブロックを紹介します。図1膨張前後の外観2.耐火材料設計と膨張機構2.1耐火材料設計釈迦に説法で恐縮ですが、燃焼とは可燃物が酸化す*は、e!高分子のSupporting Informationにハイパーリンクされています。る現象であり、燃焼の3要素とは1可燃物2酸化剤(酸素)3着火源(高温物体等)を指します。高分子の燃焼では、加熱によって熱分解し、炭化層を形成すると表面での酸化反応が進行し「燻焼(グローイング)」が起きます。配合された低分子が蒸発・昇華したり、高分子が熱分解することにより生じた可燃性気体が酸化すると「有炎燃焼」をともないます。すなわち、高分子の燃焼では、熱分解反応や、種々の分子の気体状態での有炎燃焼(酸化)反応と、固体状態での無炎燃焼(酸化)反応が同時に起きる複雑な反応系となります。グラファイトは大気下では約450度で燻焼しますが、高分子固体の熱分解では炭化層形成と同時に発生する水蒸気雰囲気下となるので、グローイングが継続する温度は約800度となります。したがって炭化層形成は有用ですが、フラッシュオーバー後の火災は、1000度以上になることから、高分子を利用した耐火設計としては、表面に炭化層を形成するだけでは足りず、酸化剤(酸素)の継続的接触を絶つ、すなわち火炎流の遮断機構を併用することが重要となります。本材料は、特殊配合により炭化物と無機物との強固な膨張層を形成しますので、強い火炎流にも耐えることができます。2.2熱膨張機構有機系耐火材料の熱膨張機構としては、いくつかの方法があります。加熱による化学反応を利用して気体を生成させる方法では、たとえば、発泡剤としてポリリン酸アンモニウムやリン酸メラミン等が用いられ、アンモニア、二酸化炭素、水蒸気等のガスを発生させます。化学反応を利用しているために経時劣化による膨張性能が低下する恐れがあり一部耐火塗料で採用された方法ですが、劣化が認められる場合には塗装し直す必要があります。筆者らが採用した方法は、膨張性黒鉛の熱膨張現象を利用したものです。膨張性黒鉛は、グラファイトの層間に硫酸分子をインターカレートしたものであり200度以上の熱が加わると層間距離が拡がり、z方向に約200倍に膨張します。この現象は不可逆的な物理的反応であり、耐久劣化の心配がないという長所があります。図2に耐湿熱老化試験後の膨張倍率の変化を示します。10倍膨張タイプ(赤)と30倍膨張タイプ(青)の両タイc2013 The Society of Polymer Science, Japan735