ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

COVER STORY: Topics and Productsトピックスのときは、ただ構造が面白いという関心からであったが、この環状という構造イメージがきっかけとなり、メカニズムに基づくコンセプト発案につながった。すなわち、環状構造をもつカルボジイミドを使用した場合、最終的に熱分解で生じるイソシアネートは遊離することなく、環状を構成する骨格を介してポリマーに留まり、ガス化しないのではないかという考えに至ったのである(図2)。3.分子設計と実証コンセプトを実証し、実用化するためには理想的な分子を設計しなければならない。専門書や文献にある環状カルボジイミドは、到底実用的なものではなかった。それでも、さまざまな構造の環状カルボジイミドを合成して評価することで得る知見(失敗)は、分子設計に多くの指針を与えた。そうした試行錯誤を積み重ね、実使用環境を考慮して、最終的に下記に示す1~3の特徴を併せもつ、新規環状カルボジイミド化合物(以下、TCCと表記する)を設計した。図3 GC-MSを用いたイソシアネートガス発生量の評価図4 80℃95%RHにおけるポリ乳酸の加水分解性評価1一つの環状構造の中に一つのカルボジイミド⇒イソシアネートガスの抑制2耐熱性に優れる骨格の導入⇒ポリマーの混練温度(~300℃)での使用3カルボジイミド基の活性化⇒実使用温度(低温)での反応性UP合成に悪戦苦闘しながら得られたTCCを使用して、コンセプトの確認を試みた。仮説に対する期待と不安が入り混じる中、ポリ乳酸(PLLA)に添加したサンプルを作製し、イソシアネートガス発生量と加水分解抑制効果を評価した。その結果、従来のカルボジイミドのように、ガス化したイソシアネートは全く発生せず(図3)、さらに、加水分解を抑制する効果も従来品より非常に優れたものであった(図4)。本結果によって、コンセプトの正しさが実証された6)。4.実用化と今後の展開さて、TCCによってコンセプトの実証はできたが、企業の研究ゆえ、次に実用化という大きなハードルを乗り越える必要があった。TCCの場合、新規な化合物であったため、安価な量産化プロセスの確立、安全性評価や法対応など多くの検討が求められた。とくに、環状構造という特殊性から、効率的な合成法がキーとなったが、合成の知見を有するほかの研究員や製造関係者の協力のおかげで、優れた方法を短期間で確立することができた。多くの関係各位との連携を図ることで、実用化に結び付いたことは、自分にとって非常に有意義な経験となった。現在、バイオフロントRへの適用を行いながら、イソシアネートの無ガス化や低温での高反応性といった前述のTCCの特徴を最大限活用して、ポリエステルをはじめとするポリマーの改質剤、塗料や接着剤用の架橋剤、ガス補足剤、複合材料などへの市場展開を進めている。まだまだスタート地点に立ったばかりであるが、TCCが少しでも世の中のために役立ち、活用してもらえるよう、顧客ニーズに応えられる研究、商品開発を継続していきたい。文1)Jahresber. Fortsch. Chem., 628(1852)2)イソシアネート化合物の反応メカニズムと応用・安全性・特許動向,技術情報協会(2008)3)Y. Tsuya, et al., Jpn. J. Clin. Ecol., 21(2012)4)A. H. M Schotman, Recl. Trav. Chim. Pays-Bas, 110, 319(1991)5)“CHEMISTRY AND TECHNOLOGY OF CARBODIIMIDES”,WILEY(2007)6)庄司信一郎,第21回ポリマー材料フォーラム予稿集, 2012.11.2,北九州, p.202(2012)献738 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻12月号(2013年)