ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

グローイングポリマーPolymer Science and I: A Personal Account何とかなるだろう阪口壽一福井大学大学院工学研究科材料開発工学専攻准教授,博士(工学).sakaguchi@matse.u-fukui.ac.jphttp://matse.u-fukui.ac.jp/labo/labo03.html大学院の研究室名/研究テーマ京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻増田俊夫研究室/新規ポリ(ジアリールアセチレン)の合成と気体透過性現在の専門は高分子合成,機能性高分子.高校の頃は、数学と物理のほうが得意であったが化学は好きではなかった。とはいえ数学や物理を面白いと思うこともなかった。しかし、高校生の終盤に高分子を習ったとき、これは面白いと感じた。当時、高分子の何に惹かれたのか憶えていないが、それがきっかけで京都大学の工業化学科を選んだ。入学当初は高分子について学びたいという熱意もあったが、部活に没頭しているうちに学問への熱意は低くなり、「留年しなければいいや」と考えるようになった。そんな姿勢だったため、成績はあまり良いほうではなかった。4回生になる直前の研究室配属では迷わず高分子合成の研究室を希望したが、どこの研究室に配属されても「何とかなるだろう」と楽観的であった。幸いにも、増田俊夫先生の研究室に配属されることになった。当時は深く考えていなかったが、今思うとここが人生の大きな分岐点であった。新4回生に与えられたテーマの中から、くじ引きで一番に選択権を得た筆者はポリ置換アセチレンの気体分離膜に関する研究を選んだ。はっきり言って、提示されたテーマの内容はあまり理解できなかったが、高分子膜で気体分子を分けられることを初めて知り、気体分離膜というキーワードだけで選択した。当時D2の先輩に指導していただき研究がスタートした。新規置換アセチレンモノマーはすでに用意されていたため、最初にメタセシス重合の方法を教わり、比較的スムーズに新規ポリマーを得ることができた。しかし、作製したポリマー膜は気体透過率測定に耐えうる強度には、ほど遠いものであった。合成したポリマーの分子量が低かったのである。その後すぐに、D2の先輩が一ヶ月間米国へ留学することを聞き、その間は基本的に一人で実験することとなった。まだ、メタセシス重合の方法しかわからない筆者は、とりあえず重合条件を検討することにした(というより重合以外のことが一人でできなかった)。触媒、溶媒、温度などを変えて重合をひたすら繰り返した。その結果、シクロヘキサンを溶媒として重合したとき生成ポリマーの分子量は10倍以上にもなった。丈夫なポリマー膜も作製でき、ガス透過率を明らかにするに至った。必ずしも期待したような成果が得られたわけではなかったが、新しい高分子を合成することの面白さが少しわかった。修士課程1年の秋ごろには就職活動を始めようと考えていたが先生から博士後期課程への進学を勧められた。私の頭の中に進学という選択肢は全くなかったが、今の研究を続けられるから「それもいいかなぁ」と安易な気持ちで進学を決めてしまった。博士後期課程在学中にはポリマーの合成がなかなかうまくいかない時期もあり、このままでは卒業できないと焦ることも多々あったが、頭のどこかでは「そのうちうまくいくだろう」と楽観的な考えもあった。このように終始「まぁいいか」や「まぁ何とかなるか」の姿勢でやってきたのだが、幸運にも卒業後は、福井大学に採用していただいた。最初の年は、ポリ(ジフェニルアセチレン)への極性基の導入とポリ(パラフェニレンエチニレン)膜について研究した。いきなりモノマーの合成につまずき、開始一ヶ月ほどで方向転換することになった。その後、当初の計画どおりには進まなかったが、学生の頑張りもあり、新規ポリマーを合成することができた。一方、ポリ(パラフェニレンエチニレン)膜の合成は比較的スムーズに進んだが、期待した特性を見いだすことはできなかった。側鎖の構造を何度も設計し直しポリマーを合成したが、飛躍的な性能の向上はなかった。その後、さまざまな共役系ポリマーを試しているうちにポリ(パラフェニレン)膜が優れた二酸化炭素分離能を示すことがわかった。二酸化炭素分離膜として応用を目指し、今はさらなる機能化を図っている。納得のいくような成果はまだ出せていないが、福井大学では自分の好きなように研究をやらせてもらっていることに感謝している。筆者の場合、最初から狙いどおりの成果を得られたことはなく、諦めず数多く試しているうちに何か見つかることがある。効率のよい方法ではないと思いつつも、まずはいろいろ試してみるようにしている。いずれは「世の中に役立つものを発明したい」と研究しているのだが、そう簡単なものではないだろう。しかし、今までのようにいろいろやっていればそのうち「何とかなるだろう」と信じている。高分子62巻12月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan741