ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

Messages:“Work and Life”先輩からのメッセージ―仕事と私事―自分なりの仕事と私事を鈴木登代子神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻[657-8501]神戸市灘区六甲台町1-1助手,博士(工学).専門は高分子コロイド化学.tsuzuki@kobe-u.ac.jpwww.research.kobe-u.ac.jp/eng-cx6/この原稿が掲載される頃は就職活動を控えた時期で、学生の皆さんは将来を考えているところだと思います。この時期になると毎年のように、女子学生さんから、研究職に就いて、ずっと仕事を続けていきたいけれど、結婚も出産もしたいし、そう考えると先をイメージするのが難しいと聞いてきました。私自身が仕事と私事のバランスの取れたロールモデルだったら、少なくとも研究室の女子学生さんはそんな不安をもたないのかもしれませんが…。最近はその問いに対して、「安心して。働き続けやすいように確実に時代が変わっている」と話をしています。私が所属する専攻で考えてみると、結婚後も仕事を続けている卒業生が増えたのは今30代半ばあたりの年代からで、彼女たちに子供ができるこれから、働くママ研究者がぐんと増えるでしょう。また、男女共同参画事業が多方面で積極的に行われ、高分子学会年次大会や討論会でも、学生でない女性参加者が確実に増えています。彼女たちと話をすると、仕事への取り組み方の前向きさが伝わってきます。今学生の皆さんが、仕事と私事のバランスを意識する頃には、彼女たちをはじめとする多くの先輩の活躍によって、より働き続けやすい環境になっているはずです。勝手に安心をと言う私を担保してくれるかのようなスピーチも聞きました。第57回高分子研究発表会(神戸)(2011年7月開催)にて女性で初めてヤングサイエンティスト賞を授賞された児島千恵先生(大阪府立大学)が授賞式で、ご自身の結婚に触れられた後、「自分が女性研究者のロールモデルになる!」と宣言されたのです。会場で聞いていて、頼もしい!と思うとともに、それだけのプレッシャーと向上心を自分に与えられ、研究者、教育者としての意識の高さに、一女性としても大いに刺激を受けました。私は修士課程の途中で、指導教員であった大久保政芳先生(現神戸大学名誉教授)が新しく作られた研究室に、教務職員として就職しました。当時はどちらかというと研究をというよりは、大学で働いてみたいという思いのほうが強かったのです。前年の阪神大震災で下宿が全壊したものの、当時学科におられた先生方、先輩方、友人のおかげで事なきを得ずに済みました。学科や研究室での人と人の繋がりの大切さが身に染み、それを引き継いでいければと思っていたのです。それから、卒業修了研究の指導補助に携わりながら、学位を取得しました。大久保先生の定年退職後も、引き続き、南秀人先生のグループにて高分子微粒子に関する研究活動を続けさせていただいておりますが、ただ漠然と好きなだけで研究に取り組んでいたのだなと最近痛感しています。一昨年、自分が提案した研究テーマが、研究室の卒業研究のテーマの一つとして動き始め、遅ればせながら、研究に対する責任に直面しました。このテーマは実験に携わってくれる学生さんのがんばりで順調に進み、外部資金の獲得にも繋がっておりますが、初めて学会で発表するときには、自分が発表するわけではないのに、近年そうなかったほどの緊張感を味わいました。表現が適切かどうか迷うところですが、自分が考えてきたことを直接評価されるのは初めての経験で、研究をするということが、よりリアルに具体的に自分に迫ってきたのです。それまでもいくつかの研究テーマは、自分でもアイディアを出し深く携わってきたつもりでおりましたが、やはり後ろに先生方がいるという甘えた気持ちがあったことを、改めて気づかされたときでもありました。学会にて面白いと言っていただいたときの、ほっとした気持ちは一種の快感で、いつまでも忘れることはできないと思います。この緊張感が研究を続ける醍醐味でしょうか。自分は自分でロールモデルなどと意識したことはありませんでしたが、緊張感よ来い来いと研究を楽しめるようになって、しばらくたってまた自分をふり返るときに、自分なりの一つのロールモデルであれればと思います。742 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻12月号(2013年)