ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻12月号

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高分子 POLYMERS 62巻12月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻12月号

PolySCHOLA測る4限目高分子鎖1本を見る1.どうやって高分子鎖1本を見るか高分子を学ぶと、まず、高分子鎖は長くて多様なコンフォメーションをとるひも状の分子であること、そして、この分子の形態がさまざまな高分子らしい特性、すなわち高分子性、の由来であることを教わります。従来、高分子鎖の形態に関する情報は、光散乱、粘度法、クロマトグラフィーなどの間接的な方法で得てきましたが、もし高分子鎖を直接観察することができれば、飛躍的に情報量を増やすことが期待できます。かつて私が学生の頃は、一般的な合成高分子の構造を顕微鏡で実像観察することは不可能でした。高分子といえばシャドウイング法を用いて観察されたDNAの透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)写真が教科書に載っていたくらいでした。しかし、今日では、原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)の発明により、容易に合成高分子の分子像を観察することができるようになっています(実際には、AFMが発明されてから合成高分子の明確な分子像が観察されるまで10年近い歳月が必要でした。高分子が明確に観察可能になった経緯についてはほかにも書いているので、興味のある方は参考にして下さい)1),2)。ここでは、イソタクチックポリメチルメタクリレート(isotactic poly(methyl methacrylate)、以下it-PMMAと略します)の分子像を観察してみましょう。it-PMMAが身近にない場合は、アタクチックPMMA(at-PMMA)でも、少し注意が必要ですが同様の観察が可能です。に使うタッピングモード(tapping mode: intermittentcontact modeなどとも呼ばれる)があります。高分子鎖の観察にはタッピングモード(もしくはその同等モード)を使います。コンタクトモードでは、高分子鎖を強い力で引っ掻いてしまうため、再現性のあるデータを得るのが困難だからです。タッピングモードではサンプルをカンチレバーで軽く叩くため、サンプルへのダメージを抑えることができ、良好に観察することができます。AFMは、適当な除振台、できれば空気ばね式の除振台に載せて使用します。図1(a)にit-PMMAのAFM像を示しますが、分子の高さは0.2~0.3 nm程度に観察されるため、基板部分がそれよりフラットに観察できるぐらい、振動が抑制されている必要があるのです。カンチレバーは、タッピングモード用の汎用のものでいいでしょう。ばね定数:40 N/m、共振周波数:300 kHz、先端径:10 nm程度のごく一般的なもので構いません。基板にはマイカ(雲母)を使いますが、これも身近にあるものでいいでしょう。it-PMMA, at-PMMAの分子量は数万以上、できれば10万程度あれば迫力のある像が撮れます。図1(a)は、数平均分子量(M n):1.76×10 5のAFM像です。1万程度の分子量では、分子鎖がひも状ではなく、点に見えてしまい、面白くありません。もっとも分子量分布の広いサンプルであれば、a50 nmb検出器レーザーカンチレバー2.AFM観察の実際の手順3)AFM装置は、筆者らはBruker AXS社のNanoScopeをよく用いていますが、身近にあるものでいいでしょう。Agilent、日立ハイテクサイエンス、日本電子などのAFMで同様に分子鎖の観察を行った経験があります。AFMの代表的な測定法には、カンチレバー(cantilever、図1b参照)でサンプルを直接走査するコンタクトモード(contact mode)と、カンチレバーを振動させてサンプルを軽く叩き、カンチレバーの振幅をフィードバック信号0.22 nm18.7 nmzxyスキャナー図1(a)マイカにスピンキャストしたit-PMMA(Mn:1.76×10 5,M w/M n:1.18,mm:98)孤立鎖のAFM高さ像.(b)AFM原理図.高分子62巻12月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan751