高分子ミセル Polymer Micelles

特集号「超臨界流体と高分子」の発行にあたって

 臨界圧力と臨界温度を超えた,液体・気体のいずれでもない超臨界流体は,その特徴的な特性により,従来から抽出や分離など物理的操作の分野で数多くの研究が進められ,技術的にも確立されてきました.最近,超臨界流体中での化学物質の振る舞いや特性に関する理解が深まるとともに,化学プロセスや高分子分野への利用に関する研究が急激な広がりを見せています.たとえば,化学反応への利用において,従来は超臨界流体の抽出能力を間接的に利用していたに過ぎませんでしたが,最近では超臨界流体を反応溶媒として用いることにより,反応速度や反応機構を直接制御できることが明らかにされつつあります.また,高分子の合成や改質・分解への応用,さらには分析や加工性の制御など,超臨界流体の特徴をいかんなく発揮した研究が基礎から応用まで幅広く進められています.

 本特集は,従来まで,どちらかといえば単発的に,それぞれの研究分野ごとに論じられることの多かった「超臨界流体と高分子」に関する研究を,近年の飛躍的発展を背景として包括的に眺め,体系的にまとめることを意図して企画されたものです.

 本企画にご賛同いただき,投稿された多くの論文に対し,通常の審査を行った結果,総合論文7報,一般論文16報,ノート3報の合計26報の報文が,本号および12月号に掲載される運びとなりました.内容的にも,企画の趣旨に沿い,操作溶媒としての利用(分析操作も含む),反応溶媒としての利用(合成反応,重合反応,酵素反応,分解反応)から,高分子製品への応用(発泡体,リサイクル)まで,広い範囲をカバーした特集とすることができました.超臨界流体利用技術を高分子に応用した研究の現状を把握し,今後の研究に生かすことのできる特集号,そして,今後のこの分野のさらなる発展,基礎研究の充実,さらには工業的・実用的応用の加速に結びつく特集号となったと考えております.

 末筆ながら,本特集号の刊行に当たりましてご投稿いただきました多くの著者の皆様,企画段階より貴重なご助言を頂いた先生方,さらには論文審査にご協力くださった先生方に深く感謝いたします.

(文責 山口 登)

(担当委員 山口 登,右手浩一,蔵本正彦,関 隆広)