S17.バイオプラスチック開発の新展開
(群馬大工学研究科)粕谷 健一
<趣旨>
 古来より人類は綿や絹などの生物由来高分子を、生活の中で利用してきた。近年、特に戦後以降の高分子工業の歴史は、石油化学工業とともに発展してきた。一方で、現在の高分子工業は、そのゴミ問題の解決、原料の脱化石資源化、あるいはプロセスの低炭素化など、様々な角度から、環境低負荷型産業への転換を模索している。このような背景のもと、生物由来高分子が再び脚光を浴び、「バイオプラスチック」の研究開発が国内外で進められている。ここでいう「バイオプラスチック」とは、日本バイオプラスチック協会が認定する、生分解性プラスチック(グリーンプラ)およびバイオマスプラスチック(バイオマスプラ)を指している。
 ポリ乳酸は、バイオマスプラスチックとして注目されるより以前から、その生体適合性により医療用途材料として生産されてきた。他方で、最近のアメリカ国内における、ポリ乳酸の大規模生産は、農作物からモノマーである乳酸の発酵合成に至るバイオリファイナリーの完成によるところが大きい。ポリ乳酸は、最も供給量の多いバイオマスプラスチックであり、その耐熱性向上をはじめとする様々な物性や成形加工に関わる研究および開発が盛んに行われている。近年、ラボレベルで、バイオマスから合成できることが実証された化合物数はどんどん増えており、高分子が工業的にバイオマス化されるかどうかは、石油由来の同一化合物との製造コスト比も大きな要因の一つとなっている。バイオポリエチレンやバイオPETが工業化に至り、バイオマスプラスチックは、環境低負荷型材料というある種のイデオロギー先行型のフェーズから、真の化石資源由来材料のカウンターパートとしての役割を帯び始めた。
 生分解性プラスチックは、バイオマスプラスチック同様に環境低負荷型高分子ではあるが、バイオマス由来である必要はなく、最終的に環境微生物の代謝を通して炭素サイクルに取り込まれるようなプラスチックということになる。高分子材料における生分解性は、ある種の物性であると考えられるが、これは一般に汎用性高分子材料が要求されるその他の物性とは排他的である。このような背景から、元来、生分解性プラスチックの用途は、環境中で使用される農林水産業資材など比較的限定的であったが、さらなる用途拡大に向け生物学から材料工学の多岐分野における基礎から応用に至る様々な研究が展開されている。微生物の生産するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、生分解性プラスチックであり同時にバイオマスプラスチックでもあるが、日本においても工業生産されている。
 本特定テーマは、「バイオプラスチック開発の新展開」をキーワードに、バイオプラスチックの研究開発にかかわる基礎から応用研究、および、バイオプラスチックの実用化、市場展開に向けた技術開発にいたるまで、産官学より広範な分野にわたる研究者が集い、バイオプラスチック開発の現状と将来の新たな可能性につながる討論を期待し企画された。
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