ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号
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高分子 POLYMERS 62巻10月号
Commentary素描特集エネルギーマネジメントに寄与する光・熱制御材料建築外皮における光と熱の制御井上隆東京理科大学理工学部建築学科[278-8510]野田市山崎2641教授,空気調和・衛生工学会副会長,工学博士.専門は建築環境工学,とくに建築・住宅の省エネルギー.www.rs.noda.tus.ac.jp/~inoue-m2/indexj.html第一次(1973年)から繰り返し発生した石油危機、90年代から顕在化した地球環境問題を経て、今般の未曾有の大震災、さらには津波に起因する原発事故によるエネルギー事情など、建築・住宅を取り巻く環境は変化し課題は次々と上乗せされるものの、省エネルギーが主要な解であることに変わりはない。ノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第四次評価報告書においても、工業・交通・農業などすべての分野の中で建築分野(含む住宅)の温暖化影響削減ポテンシャルが最大と位置付けられている。それだけ日々の活動・生活に直結する建築・住宅分野における負荷が大きいということを意味しているが、ここでのエネルギー消費量は、空調・照明・給湯などの設備機器・システムの効率、使い方とともに、外壁・窓・屋根など建築外皮の性能に大きく左右される。今回のテーマである光と熱の制御という観点からは、建築外皮の中でも窓・アトリウムなど透明部位の影響が環境負荷・快適性の両面できわめて大きい。これはほかの部位と異なり、遮断性のみならず光の透過性も求められるため、構成材料は主として板ガラスとなり、十分な厚さの断熱材を設置できる外壁・屋根など不透明部位に比べると、断熱性、日射遮蔽性の双方において著しく劣ることによる。第一次オイルショック直後には、省エネルギーの観点からはこのように熱的弱点である窓は小さいほうが有利との判断から極端に窓の小さいオフィスビルも建設されたが、勤務する方々の心理面を含め決して高い評価にはならず定着することはなかった。省エネルギーの観点から見ても、窓から入る自然光を利用して照明を制御するならば窓はある程度の大きさがあるほうが有利となる。オフィス、ホテル、デパートなど業務用建築はその用途ごとにエネルギー消費の様相は大きく異なるが、最も一般的で延べ床面積が大きいオフィスを例に上げると、エネルギー消費内訳の最大項目は冷房、次いで照明であり、したがってその効果的削減のためには日射の遮蔽と自然光利用が重要となる。近年、意匠性、開放感などの要求から、窓は大きくなり、立面の大部分がガラスで構成される建築も珍しくない。このような場合、窓に求められる自然な視界・開放感を保ちつつ断熱性や日射遮蔽性を確保するため、エアフロー型窓やダブルスキンなど多層化した窓システムと、日射の状況に応じて昇降や角度変更を行う自動制御ブラインド、さらには照明制御の組み合わせが効果的で、携わったいくつかの超高層オフィスビルなどの事例では実績値で20~40%の省エネルギーが実現できている。一方で、以上のような多層化および、センサー・通信・制御・駆動などの技術を連係させる建築外皮の高性能化とともに、外皮素材が、選択的に透過・反射・吸収し、生物の皮膚のように、内外の状況に応じて性能を変化させ内部の快適性や省エネ性を満たすパッシブな手法の模索も行っている。具体的には、日射などにより相変化温度以上に上昇すると白濁して均等拡散状態となり、以下になると透明に戻る高分子ハイドロゲルを用いた自立応答型調光ガラスによる日射の遮蔽と自然光利用を実建築で試み省エネ性とともに勤務者の評価についても相応の成果をあげている。また、日射のうち光は透過し近赤外域は反射する特性を有する遮熱型Low-E複層ガラス、同様の波長特性を有するフィルムなども一般的に用いられるに至っているが、これら波長特性のみならず、特定の波長域、すなわち近赤外域のみに再帰反射性をもたせたフィルムの研究も行っている。高分子基材が必要な微小形状を実現する訳であるが、従来の手法では、窓面で鏡面反射された近赤外域成分はそのまま前面の街路に降り注ぎ、見えない波長域で大きく体感温度を上げているのに対して、上空に反射することで街路の放射環境の改善やヒートアイランドの緩和効果も期待している。人類のエネルギー大量消費が問題とされる現時点においても、降り注ぐ太陽エネルギーはその約一万倍と圧倒的であることを考慮すると、この制御・活用の重要性は論を待たない。建築・住宅など身近な快適性や省エネルギー性の向上、さらには都市環境の改善、ヒートアイランドや地球温暖化対策に関して、好適な波長選択性・可変性を有する高分子材料の新展開に大いに期待させて頂いている。*は、e!高分子のSupporting Informationにハイパーリンクされています。594 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻10月号(2013年)