ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻10月号

COVER STORY: Highlight Reviews展望ここで述べる液晶・高分子のメゾ相分離構造は、光の波長程度から数十ミクロンまでのスケールで液晶と高分子が相分離した複合構造を指す。これは、高分子中に液晶滴が分散する高分子分散液晶(PDLC)や、液晶が網目状高分子の隙間に充填された連続構造をもつ高分子ネットワーク液晶(PNLC)などに分類され13),15)、このように複合構造化すると、電場、熱、光の外場を加えることで光伝播方向を直接変調するという、液晶単独でできなかったことが可能になる。また、相分離構造内の液晶相に二色性染料が含まれた、光吸収型スイッチや16)、液晶と高分子相が規則的に配列した、いわゆるホログラフィック構造をもつ高分子分散液晶(HPDLC)なども報告されている17)~22)。上記のように、高分子中に凝集局在化した液晶の配向を外場で制御することで、液晶と高分子相の間の屈折率関係が変化し、光伝播特性(強度、方向、偏光)をダイナミックに変調できる。以上の特徴から、液晶・高分子のメゾ相分離構造はディスプレイや電子書籍をはじめ、空間光変調素子や光書込み型記憶媒体といった情報処理分野に展開され、またフォトニック結晶やレーザー発振器、さらに本稿で紹介する調光窓材12)を含め、光機能部材として応用範囲が拡がってきた。液晶・高分子のメゾ相分離構造の作製で広く行われる手法に、光重合誘起相分離技術がある。この作製工程を筆者らの例で紹介する12),17)~20)。まず、液晶やモノマー、重合開始剤など必要に応じて添加物を加えた混合原料を準備する。それを数から数十ミクロンの厚みをもたせて二枚の透明基板で挟み、それに可視や紫外光を照射して半自己組織的に相分離構造を作り込む。なおHPDLCの作製法は、一般的なホログラムの作製手法、いわゆるホログラフィック露光を用いる点を除けば同様の手法となる。すなわち、照射面で光強度を空間規則的に分布させ、光の強弱に応じた重合速度の違いで、高分子と液晶相の周期相分離を形成する。図3は、HPDLCの中でもBragg回折型の模式図と実際の格子の断面写真である。Bragg型の場合、Bragg条件を満たす波長の光を中心に強く回折する。このHPDLC中の液晶分子を配向転移させ屈折率変化ひいては回折の切り換えを起こすことで、熱応答型の調光素子とし図3HPDLCの模式図とSEM断面写真.ある入射角の光は特定波長を中心に強く回折する.て機能させることができる。3.窓材に向けて調光窓ガラスが普及するための要件として、高い調光性能と容易な作製工程がまず挙げられる。液晶・高分子のメゾ相分離構造は、光学特性が外場に対し良好な応答を示す点、そして一種の光誘起自己組織化で作製できる点で、ポテンシャルを有する。まず、液晶の電場応答性を活用したタイプの技術開発は、最も精力的に行われてきた。たとえばPDLCの白濁(散乱)/透明スイッチング23),24)は、瞬間調光ガラスとして建物の空間演出などに向けすでに実用化されている。また、液晶のメゾスケール螺旋周期構造を高分子で安定化させた、選択反射調光材も報告されている25)。一方、液晶の相転移を利用した、熱応答型の調光窓の開発にも取り組まれている26)。これは電場制御型に比べて応答が遅いなどの課題はあるが、温度のみで光伝播特性を変えられるため、シンプルな部材構成と単独動作が可能な点で普及がしやすいと期待される。熱応答型調光窓材の例として、筆者らが取り組んでいるHPDLCを改めて紹介する。調光窓には、図1で示したように、窓本来の役割である可視透過性の維持を考慮しつつ、紫外から近赤外にわたる範囲の日射エネルギーを自律的に制御することが望まれる。また日射は一日の中で、さらに通年で刻々と入射方向を変えるため、その寄与も無視できない。調光窓への応用にはHPDLCの中でも図3に示したBragg回折型が良い。Bragg回折は、光回折効率が高く、波長や入射角の選択性が強いため、格子構造を適切にデザインすれば効果的な日射制御窓としての応用が期待できる。調光窓に向けた格子構造の設計は、図1に示した日射と視感度を考慮し、回折光学理論に基づいて行う。HPDLCにおけるBragg回折の解析は、電磁波動光学を基礎とするKogelnikの結合波理論27)をはじめ、光学異方性を含め一般化した二光波理論28),29)などが積極的に使われてきた。筆者らは、結合波理論を軸に入射角と波長による回折効率を見積もり、調光窓材として最適なデザインの探索を続けている。図4に光学計算の一例として、格子ピッチと厚みに対する調光性能を示す。この調光素子の設計には、まず二つの性能要素、調光幅と可視透過率が重要となる。前者は調光時のエネルギー制御性能で、素子の分光透過率変化を日射エネルギー分布(図1)で重み付けし、波長に関し積分して得られる値である。後者は窓本来の機能に相当する採光性で、素子の分光透過率を視感度(図1)で重み付けし積分した値である。また本素子のような回折型では、結合波理論から導かれるBragg回折格子となるための条件も満たさなければならない。実環境で調光窓に要請される性能は、建物の立地、窓の配置、さらに596 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻10月号(2013年)