ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

展望COVER STORY: Highlight Reviews特集エネルギーマネジメントに寄与する光・熱制御材料バイオマスの構造を活かした太陽熱吸収材料近藤義和琉球大学産学官連携機構[903-0213]沖縄県西原町千原1教授,博士(工学).専門は材料科学,エネルギー.kondoyos@lab.u-ryukyu.ac.jpwww.iicc.u-ryukyu.ac.jp/バガス(サトウキビの絞り滓)は非常に優れたバイオマス資源である。特殊な多孔構造をもち、軽量性、防振性、防音性、断熱性等の優れた機能が発現する。炭化も容易であり、バガス炭では多様な多孔構造を有するために太陽光を広波長域で吸収する。その優れた光吸収特性を利用して太陽熱集熱材、断熱材、海水淡水化等への展開が可能である。から消費地へ輸送する必要もなく、CO 2の発生もないきわめて安価でクリーンなエネルギー源である。太陽熱の活用という観点では太陽熱温水器(ソーラーコレクター)が利用されている。日本では設置数が減少しているが海外では大きく増設が続いている1.はじめに3.11は世界中に衝撃を与え、それを境に原子力から新エネルギー(renewable energy)へ、電力についても、集中型から分散型へと考え方が一変した。とくに、地域的に局在化せず永久に降り注ぐ太陽光を始めとする新エネルギーをいかにうまく利用するかが、エネルギー問題解決の鍵になると考えられる。その材料の一つとしてバイオマスを利用した太陽熱(光)吸収材料の開発およびその応用について現状を報告する。2.省ネルギー・新エネルギー21世紀は「環境の世紀」とも言われる。環境負荷を考慮せず産業やエネルギー等の問題を考えることはできない。これまでは、大出力の火力、原子力発電で上質な電力をふんだんに利用できたが、今後は環境負荷の少ない多様なエネルギーを効率的に利用することが重要になる。また、エネルギー問題で最も重要なことの一つは省エネルギーであり、省エネルギーの観点からソフト(たとえば、スマートシティ)およびハード(断熱性向上、排熱利用等)の最適化を進めることが必要である。日本での最終エネルギー消費は産業分野や運輸分野では漸減しているが、民生分野では大幅な増加が続いている1)。生活様式の変化にともなう家電の大型化やパソコン等の電気・電子機器等の普及によるものである。民生分野でのエネルギー消費は電力需要が約4割で熱需要が約6割であり、ここにヒントがあると考えられる。すなわち、熱の部分を新エネルギー、たとえば太陽熱、バイオマスエネルギーなどに転換できれば膨大な化石燃料(CO 2排出量)の消費削減につながる。太陽熱は地球上に万遍なく降り注いでおり、生産地3.高効率太陽熱吸収材料太陽光のスペクトルは紫外~可視~赤外領域と幅広い波長範囲に及ぶ。太陽電池では効率よく光を吸収させるために吸収層の多層化や量子ドットなどが研究されており、2050年時点での光電変換効率の目標は40%である。一方、太陽熱の吸収においても太陽光の全波長を吸収する材料が好ましい。金属表面にサブミクロンの孔径、孔の深さ、孔分布を有する特定の微多孔構造を形成することにより0.2 mmから1 mmまでの波長範囲で太陽光の吸収率を0.8以上、輻射熱を0.04以下に低減した太陽光熱変換材料が提案されている2)。筆者も濃色化繊維(表面反射防止)の開発において親和性とプラズマエッチング特性の異なる2種のポリマーのミクロ相分離構造を形成・薄膜皮膜化し、次いでプラズマエッチングを行い特殊な形状の凹孔を有する反射防止被膜を工業的に大量・安価に高速で製造する技術を開発した3)。ここでは発色性改善(可視光線の反射防止)のために0.4 mmの特殊形状の凹孔を表面に形成させた。今回のテーマである太陽熱吸収では全波長域を効果的に吸収するためには孔径がサブmm~数十mmにわたる幅広い凹孔分布が必要となる。工業的にこうした全波長対応の材料を製造することは困難であるが、バイオマスではこのような凹孔を有する植物が存在する。4.バガス炭の構造と物性バイオマスは大気中のCO 2を吸収してO 2を排出する唯一の存在である。多くのバイオマスの中でバガスが最も質の良いバイオマスであると筆者は信じている。第一に生産量が17.9億トン4)と穀物用作物としては最大である。第二に品種が揃って均質。第三に製糖工場に自動的に集められるために回収手間が少なくて済む。高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan601