ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号
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高分子 POLYMERS 62巻10月号
展望COVER STORY: Highlight Reviews図5バガス炭横断面中の多孔分布メソポア(2~50 nm)、ミクロポア(<2 nm)と階層的な多孔構造となるため、図3に示すような全波長域でフラットな非常に効果的な光吸収特性になるものと推測する。5.バガス炭による太陽熱吸収と海水淡水化地球温暖化、人口増加による耕作地の拡大と森林面積の減少により、飲み水や灌漑用水として利用可能な水は益々減少し、飢饉的様相を示す地域は拡大している。2025年の世界での水ビジネスは約87兆円10)と見込まれ、2007年の2.4倍にもなるが、一方で水飢饉も進むと懸念される。海水淡水化は逆浸透膜法と多段蒸発法が一般的である。太陽熱を利用した海水淡水化装置としては、減圧下で多段蒸発を行い、5 kg/m 2 /日の真水を製造する装置11)がラボ的には提案されている。しかし、いずれの方法もコストの設備依存性が大きいため大型集中方式にならざるを得ず、エネルギーインフラが不十分な島嶼国や小さなコミュニティー等では、装置の導入が困難である。そこで、筆者は、常圧下で海水の単蒸留を行う、非常にシンプルかつ安価で、性能がサイズに依存しない淡水化装置を開発した。本装置は小規模な分散型であり、個人用としても利用可能なものである。この技術を用いて平成24年より(独)国際農林水産業研究センター(JIRCAS)と共同で太陽熱をエネルギー源とした海水淡水化プロジェクトを開始した。0.38 m 2の集熱面積のデバイスに約4.5 Lの海水を満たして晴天下に置くと、45分で沸騰を開始し16時過ぎまで沸騰状態を継続する12)(図6)。つまり、1日に約8時間は太陽熱だけで海水を沸騰・淡水化できる。同時に塩分が濃縮した海水も得られるため製塩業も可能である。本方法の特徴は上述した特殊な多孔構造を有するバガス炭を太陽光吸収剤とすることで簡単な装置で高性能の海水淡水化が可能となることである。図6海水淡水化実験6.結論バガス(サトウキビの絞り滓)は従来のバイオマスの欠点(収集の手間、洗浄・不純物の除去等の前処理の必要性、不均質性、等)の多くが解消された優れたバイオマス資源である。特殊な多孔構造によって軽量性、防振性、防音性、断熱性等の優れた機能が備わる。炭化も容易であり炭化物(バガス炭)は多様な多孔構造のために幅広い波長域での太陽光の吸収特性に優れる。この光吸収特性を利用して太陽熱集熱材、断熱材、海水淡水化等が展開可能である。本材料によって太陽熱エネルギーの活用幅を拡大でき、化石燃料の使用量を大幅に削減することができると期待される。謝図1のTEM写真は九州大学超高圧電子顕微鏡室にてとっていただいたこと、感謝申し上げます。文1)資源エネルギー庁,エネルギー白書20122)湯上浩雄,斎均,特開2003-3226073)近藤義和,特許25668854)FAOSTAT, Food and Agriculture Organization Cooperate StatisticalDatabase of the United Nations(2011)5)近藤義和,堤純一郎,川満芳信,上野正実, H21年度NEDOエコイノベーション推進事業成果報告書「バイオマス由来のバガス炭の太陽熱吸収能力および発電能力等の調査」(2009.3)6)柴田信一,近藤義和,成形加工, 23, 33(2012)7)日経ものづくり, 8月号(2012)8)竹本哲也,清水俊晶,吉川正晃,藤本宏之,川崎真一,福澤康典,川満芳信,上野正実,近藤義和,西村美和子,第24回日本吸着学会研究発表会(2010.11.5-6)9)鈴木京子,山田哲夫,斉藤幸恵,鈴木勉,木材学会誌, 54(6), 333(2008)10)Global Water Market 2008, 1ドル=100円換算11)Y. Yamaguchi and H. Sato, Proceedings of JSES/JWEA Joint Conference,2002, pp.363-366(2002)12)Y. Kondo, K. Koda, K. Omori, Y. Kawamitu, and M. Ueno, ISSCT-28,June 23-27, Sao Paulo(2013)辞献高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan603