ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

COVER STORY: Topics and Productsトピックスイド(PPS)のマトリックス中に、PPSの脆い性質を改善する軟質成分に対応したポリエチレン(PE)相がmmオーダで分散した相分離構造を形成し、かつPE分散相内に直径約80 nmの多層CNTが局在化した状態にある(図1(b))。またPPSマトリックスとPE分散相との界面領域を拡大すると、CNTを分散相内に閉じ込める役割の殻層形成成分に相当したエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)の存在が確認できた。PPSに対してCNT 1 vol%を単純分散させたCNT/PPS系では、系の熱伝導率はPPS単独系に比べて約1.6倍に向上するが、絶縁性の尺度となる体積抵抗率は大きく低下した。一方、新規技術に基づくCNT/PPS/PE/EGMA系では、PPS単独系と同等の体積抵抗率を維持したまま、熱伝導率のさらなる向上(PPS単独の約1.8倍)が達成された。さらに上述の体積抵抗率を指標とする系全体の平均的な絶縁性評価に加えて、nm~mmオーダでの樹脂の高次構造に対応したスケールでの絶縁性評価として、走査プローブ顕微鏡(SPM)の微小電流測定モードを利用して電圧印加時の電流パスの有無を調べた。この方法では、Auコートした試料断面とPtコートした探針(プローブ)の間にDCバイアス電圧を印加し、それにともない観察面内に生じる微小電流像を観察する。図2に示すCNT/PPS系(単純分散)とCNT/PPS/PE/EGMA系(分散構造制御)との微小電流像の比較において、前者では500 mVの電圧印加条件で電流パス像が観測されるが、一方後者では10倍以上の10 Vの電圧印加条件でも電流パス像は全く観測されず、これらより絶縁性確保に有効と考えた構造形成の妥当性が確認できた。3.応用3.1無機フィラー配合1)nmサイズのCNTの少量分散により樹脂自体の熱伝*図2 SPMを用いた微小電流観察像は、e!高分子のSupporting Informationにハイパーリンクされています。導率向上に相当する効果が発揮されることから、従来の熱伝導性無機フィラー配合量の大幅削減と、それにともなう樹脂特性の低下を抑えることが期待できる。たとえば、PPSに無機フィラーとしてBN粒子を15 vol%配合すると、PPS系の熱伝導率は約2.6倍に向上するが、そこにわずか0.85 vol%のCNTを添加し図1と同様な構造制御を行うことで、フィラー配合PPS系の熱伝導率を樹脂単独系の4倍以上に容易に高めること(CNT分散による樹脂相の熱伝導率UP率とほぼ同等の効果)が可能となる。一方BN粒子のみでは、同等レベルの達成にはさらに10 vol%オーダの増量が必要である。3.2各種樹脂2)PPSをマトリックスとするCNT/PPS/PE系では、各構成樹脂成分の溶融状態での混練過程におけるCNTとの親和性の大きさは、分散相樹脂(PE)>マトリックス樹脂(PPS)の関係にあるものと推定される。この関係が成り立つ場合、さまざまな樹脂系への応用が可能と言える。ポリアミド6(PA6)とPPSとの組み合わせでPA6をマトリックス(主成分)樹脂とした場合、CNTとの親和性はPPS>PA6の関係にあるため、殻層形成成分の共存のもと、PPS分散相内にCNTが局在化した図1と同様な構造が形成され、かつ狙いとする系の高熱伝導化と絶縁性維持が達成された。なお、CNTのような繊維状フィラーについて、通常樹脂の流動にともなう配向による系の熱伝導率の異方性(面方向と厚み方向)が懸念されるが、分散相内のCNTは流れの影響を受けにくく、異方性の問題が軽減される利点を併せもつ。4.おわりにこれまでの絶縁樹脂の高熱伝導化は、樹脂自体の熱伝導率をそのままにして、おもに熱伝導性フィラーの配合技術を基本に取り組んできた。今後の電気・電子部品用途における絶縁樹脂の大幅な放熱性向上の要求へ迅速、かつ的確に対応していくには、CNTのようなナノフィラーの少量添加による手法を含めて、樹脂相の高次構造制御技術の高度化に基づくアプローチがきわめて有効と考えられる。ここで紹介したCNTを用いた高熱伝導化技術は、さまざまな樹脂系への応用が可能という点で、汎用性があり、かつ実用性の高い手法の一つとして、効率的な熱制御が急務な自動車分野をはじめとする、さまざまな絶縁樹脂用途への応用展開が期待できる3)。文1)T. Morishita, M. Matsushita, Y. Katagiri, and K. Fukumori, J. Mater.Chem., 21, 5610(2011)2)森下卓也,松下光正,片桐好秀,福森健三,第60回高分子討論会予稿集, 60, 2504(2011)3)(株)豊田中央研究所,特許第5158446号献610 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻10月号(2013年)