ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻10月号

グローイングポリマーPolymer Science and I: A Personal Account高分子のクリエイティブ・デザイナーを目指して織田ゆか里九州大学大学院工学研究院応用化学部門特任助教,博士(理学).y-oda@cstf.kyushu-u.ac.jpwww.cstf.kyushu-u.ac.jp/~tanaka-lab/大学院の研究室名/研究テーマ大阪大学大学院理学研究科青島貞人研究室/イオン性および刺激応答性ブロックコポリマーのリビングカチオン重合による精密合成とその機能開拓現在の専門は高分子合成,機能性材料.「大学の仕事はクリエイティブで楽しいぞ」思い切って髪を切り、いざ就職活動を本格的に始めようとしていた修士一年時の秋、恩師である青島貞人先生が教授室でおっしゃった。それまで全く考えたこともなかった進路に驚くと同時に、筆者にもそんな素敵な仕事に携われる可能性があるのかと、目を輝かせたことを今もありありと思い出す。当時、初めて高分子学会年次大会や討論会に参加する機会を頂き、「学会ってこんなところなんだ!」と感激したばかりだった。かくして、楽観主義者でお調子者の筆者は、大学教員として「クリエイティブ」な仕事をすることを夢見て、博士後期課程への進学を決意した。学部四回生の研究室配属時に頂いたテーマは、「リビングカチオン重合によるアミノ基含有pH応答性ポリマーの精密合成」であった。テーマ実験を始める前には、伝統的に練習用のリビングカチオン重合をクリアしなければならない。リビング重合のはずなのに合成したポリマーの分子量が理想的な値に一致せず、悔しくて泣き出しそうになり、先輩方を困らせたこともあった。無事(?)練習重合を卒業してからは、第一級アミノ基やカルボキシ基を側鎖に有するブロックや星型ポリマーの精密合成を検討し、新規な刺激応答性材料の開発に取り組んだ1),2)。色鉛筆を使ってノートに下手な絵を描きながら、どんな構造のポリマーを作ったら面白い刺激応答挙動を示すのだろう、と一生懸命考える毎日は楽しかった。博士後期課程に進学してからは、なかなか実験がうまく進まず落ち込む日々が続いた。そんな中、ミシガン大学に八ヶ月間留学する機会を頂いた。滞在した研究室では、自然界に存在する抗菌性ペプチドの構造と機能に倣った、抗菌性高分子材料の開発に取り組んでいた。そこで筆者は、ビニルエーテルのリビング重合により、第一級アミノ基を有する種々の両親媒性ポリマーを精密合成し、高分子構造が抗菌活性に及ぼす影響を系統的に検討した。その結果、水中で自己組織化するブロックコポリマーがバクテリア細胞に選択的に活性を示すことが明らかとなった3)。ポリマーの構造制御によって、抗菌活性や細胞選択性を制御できる可能性を目の当たりにできたことは素直に嬉しく、面白かった。また、15分以上外を歩けない-20℃の冬、研究室でも家でも英語だけで話す生活、そして、それまで全く勉強したことのなかったバイオマテリアルへの挑戦、といった厳しい環境は、筆者のマイペースで甘えた性格を鍛えなおしてくれた。学位取得後は、青島研究室の特任研究員として、異なる分野の先生方との共同研究に携わった。無機材料の結晶成長制御に有効なポリマーの精密合成を検討し、さらにコモノマーの構造設計により、これらテンプレートポリマーへの分解性付与を検討した。この四月からは、九州大学で教育・研究に従事している。キーワードは、「高分子・固体・界面」の三つである。新しい分野への展開と挑戦に胸がときめいた。勉強すべきことは山積みであるにもかかわらず、とにかく前向きに、未来に目を輝かせる点は、博士後期課程進学を決意した頃と何ら変わらない。筆者のこれまでの高分子精密合成・構造制御を軸とした経験を基に、物理化学的な視点を融合させ、新たな材料設計を目指している。まずは、高分子の水界面における構造および機能(とくに生体適合性や接着性)制御のための分子設計指針の確立を目指し、学生たちと一緒に試行錯誤しながら日々奮闘している。もちろん、研究者としての長い道のりに足を踏み入れたばかりの筆者は、学生時代に夢見た「クリエイティブ」な仕事には程遠い。しかし、どんなポリマーが面白いのかな、と相変わらずノートに色鉛筆を走らせる日々は、やはり楽しい。いつの日か、これまでにないような高分子材料を描き、実際に創り出してみたい。そんな夢を抱きながら、目の前の研究に真摯に向き合い、一歩一歩着実に進んでいる。文1)Y. Oda, S. Kanaoka, and S. Aoshima, J. Polym. Sci., Part A: Polym.Chem., 48, 1207(2010)2)Y. Oda, T. Tsujino, S. Kanaoka, and S. Aoshima, J. Polym. Sci., Part A:Polym. Chem., 50, 2993(2012)3)Y. Oda, S. Kanaoka, T. Sato, S. Aoshima, and K. Kuroda,Biomacromolecules, 12, 3581(2011)献高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan611