ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

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高分子 POLYMERS 62巻10月号

高分子科学最近の進歩Front-Line Polymer Science高分子発泡技術の最新動向大嶋正裕京都大学大学院工学研究科化学工学専攻[615-8510]京都市西京区京都大学桂教授,工学博士.専門は高分子成形加工,プロセス制御.oshima@cheme.kyoto-u.ac.jpwww.cheme.kyoto-u.ac.jp/6koza/modules/bulletin/1.はじめに高分子の発泡成形の歴史は古い。スウェーデンの発明家による発泡ポリスチレンの特許(1931年)に端を発し、1941年にダウ・ケミカル社がその特許を再活用してポリエチレン発泡体を工業化、さらに1944年に押出成形によるポリスチレンボードの製造を開始したことに始まる1),2)。その後、今日まで70年近くにわたり、高分子の発泡体は、軽量化材、断熱材、衝撃吸収材等に幅広く利用されてきている。現在では、光反射材、遮光材、吸音材など、従来とは少し異なる機能を活かした発泡体も作られている2)~8)。それに応じて発泡成形技術もさまざまな面で発展してきている。たとえば、1980年代後半まで高分子発泡体の製造には、フロンガスがおもに発泡剤として利用されていた。しかし、オゾン層破壊係数や地球温暖化係数が大きいことから、フロンガスを使わない発泡技術への移行がなされた。いわゆるノンフロン化技術の開発が進められた。その流れの中で、今日、環境負荷が低いCO 2やN 2を使った発泡成形が生まれた3),5)。CO 2とN 2は、フロンや代替フロンガスあるいはブタンなどの炭化水素系の発泡剤と比較して、高分子への溶解度は低い。したがって、発泡倍率が大きくならない(膨らまない)。しかし、一方で、この溶解度の低さが工業的に、発泡体中のセル径の微細化を可能にした。ここでは、このような発泡技術の最新事情を紹介するために、まず、発泡成形の用語や原理について簡単に解説し、その後、発泡体の多孔構造の微細化の研究開発に焦点を絞り、過去の技術や研究との繋がりを見ながら最新の動向について紹介しよう。すなわち、発泡体の孔径が従来のミリメータサイズのものからマイクロサイズのマイクロセルラーフォームと呼ばれる発泡体の製造に、さらには、ナノメータオーダの孔をもつナノセルラーフォームの創製に向けて、どのように研究が進められてきたのか、また、孔径のナノ化によりどのような機能が期待できるのかを紹介しよう。2.バブル・セル・フォーム2.1微細発泡体泡(バブル)とは、気体、液体、固体のうちの二つが境界を保有しながら分散して共存している状態での分散相を指す。広義に捉えれば、液体中に分散する気体、固体中に分散する気体、固体中に分散する液体も泡である。泡一つ一つを指すときセルと呼び、泡が多数集まって集合体を形成している状態を指すときフォームと呼ぶ。マイクロセルラーフォームとは、セルの平均径が1~100 mmのフォーム2)~5)を、ナノセルラーフォームとはセルの平均径が1 mm未満のフォームを意味する。セル構造には、セル壁に穴があり、セル同士が連結しているオープンセル(連通泡)とセル同士が独立しているクローズドセル(独立泡)がある。オープンセルのフォームはフィルターや吸音材として利用され、クローズドセルは断熱材などに利用されている。2.2発泡体作製の基本的原理発泡体の作り方にはさまざまな方法がある。メレンゲを卵白から作るときのように、機械的に液体と気体を混練したり激しく液体を振盪させ、気体を巻き込んで気泡を作る振盪法、ノズルを通して気体を液体に吹き込み泡を作る気体吹込法、多孔材を介して液体中に気体を吹き込むスパージング法、あるいは、沸騰のように、蒸気圧の温度依存性を利用して液体を加熱して気化させて泡立てたり、気体の液体への溶解度の圧力依存性を利用してガスを高圧で液に溶かし、減圧して泡立たせる気液相分離法がある。最近では、炭化水素を含有した高分子素材で作られたマイクロカプセル(微粒子)を加熱し、高分子素材のなかで膨らませる熱膨張粒子法とよばれるものも開発されている9)~11)。また、レーザーによる局所加熱で分解反応や相分離を誘起する手法も提案されている12)。これらの手法のなかで、相分離法はマイクロメータスケールやナノメータスケールにわたるさまざまなサイズの泡を作ることができ、かつ、粘性の高い高分子融液中に気泡を数多く作るのに適した手法でもあり、相分離させる気体の供給を化学物質の反応に求める(化学発泡法)か、溶解などの物理的手段に求める(物理発高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan613