ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号

ページ
32/82

このページは 高分子 POLYMERS 62巻10月号 の電子ブックに掲載されている32ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

高分子 POLYMERS 62巻10月号

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

高分子 POLYMERS 62巻10月号

Front-Line Polymer Science高分子科学最近の進歩泡法)かの違いはあるものの、発泡成形体の作製法としては、この相分離法を動作原理としているものが多い。本報で紹介するマイクロやナノセルラーフォームの作製方法の多くが、物理発泡法によるものであるため、ここで物理発泡法について簡単に纏めておこう。物理発泡成形法は、図1に示すように、1発泡剤となる物質の高分子素材への拡散・溶解、2昇温あるいは減圧操作により熱力学的不安定状態を起こして気泡を発生させる(気泡核生成)、それに引き続く3気泡の成長、さらに4その気泡の固定化(安定化)の四つのプロセスからなる。図2は、各種高分子へのCO 2の溶解度を示すもので、CO 2で加圧された200℃の高圧容器のなかに高分子試料を曝しておいた際、その試料の単位重量当たりにどれだけのCO 2が溶け込むかを測定した結果である。(温度依存性を示すため、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)については、100℃の結果も載せている。)図のように、ほとんどすべての可塑性樹脂に対して0~15 MPa程度では、CO 2の溶解度は圧力に比例して増え、温度を下げると溶解度が上がる。ただし、20 MPaを超えた圧力では溶解度は横ばいになってくる。この溶解図1物理発泡プロセス図2 CO 2の各種高分子への溶解度の圧力依存性(200℃)特性を活かして、高分子の物理発泡が行われる。すなわち、「物理発泡させる」とは高圧でガスを高分子に溶解させておき、その後、減圧あるいは昇温し、過飽和状態を作り出し、相分離を誘起させ気泡を高分子中に発生(発泡)させるということである。後に述べるようなセルのサイズや密度を制御するということは、ここで述べた四つのプロセスを制御することにほかならない。3.マイクロセルラーフォームの最新事情1980年代半ばに、セル径が10 mm以下、セル密度が1×10 8個/cm 3以上の微細発泡体(マイクロセルラーフォーム)がCO 2とN 2を発泡剤として熱可塑性高分子で作製された2)~5)(今は、先にも述べたように1~100mmにまで拡大されて定義されている)。このとき、セルをマイクロスケールのオーダーまで微細化すれば、機械的強度を低下させないはずだという微細化の利点が提示され13)、多孔化しても強度が低下しない高分子発泡体、環境負荷の少ないCO 2とN 2を発泡剤とする発泡技術として注目を集め、その後、マイクロセルラーフォームの研究が積極的に推し進められた。従来のミリメータスケールの孔の発泡体と比較して、多孔化による機械的強度の劣化が少ないことが利点として受け入れられ、マイクロセルラーフォームの各種部材への適用が進められてきた。他の気体と比べてCO 2は温度が31.1℃以上で、圧力が7.38 MPa以上と比較的温和な条件で液体に近い密度と気体に近い分子拡散性をもつ超臨界状態になる。このことから、超臨界状態のCO 2を発泡剤として利用する発泡成形法は、超臨界発泡という名前で呼ばれ衆目を集めた。科学的には、この発泡技術は、CO 2やN 2が超臨界状態であることが必要条件ではない。事実、最近になって、発泡体を製造するために圧力をボンベ圧以上に昇圧することなく、N 2による発泡ができるような成形法も提案されてきている。ただ、マイクロセルラーで作られた製品が上市されるまでの技術開発の道のりはそう簡単ではなかった。CO 2やN 2の高分子への溶解性や拡散性がフロンガスや炭化水素のそれとは異なり低いことから、単純に発泡剤をフロンや炭化水素系のものからCO 2やN 2に替えて、あとは何ら技術的にも装置的にも変えずに発泡体を作るという具合にはいかなかった。微細発泡体の力学的物性や発泡成形原理の研究、発泡に適した材料・装置の研究開発が積み重ねられ、その結果、漸くCO 2およびN 2を発泡剤として利用した発泡体が製品化できたといってよい。図3は、コアバック射出発泡成形法という手法14),15)で、N 2を発泡剤としたナイロンのマイクロセルラーフォームの自動車のエンジンカバーの写真である6)。コアバック射出発泡成形は、通常の射出発泡成形とは少し違い次のようにして発泡体が作られる。射出成形機に、発泡614 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻10月号(2013年)