ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号
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高分子 POLYMERS 62巻10月号
高分子科学最近の進歩Front-Line Polymer Science図10発泡PSナノ粒子22)図11光分解反応によるナノセルラーフォーム23)の照射によって酸を発生する添加剤で、ジフェニルヨードニウムパーフルオロアルキルスルホネート、トリフェニルスルホニウムパーフルオロアルキルスルホネート、フタルイミドスルホネートなどが利用できる。光照射することにより、このPGを分解させ酸を発生させtertbutyl基と反応させてイソブテンガスを発生させる。このガスを発泡剤として高分子を多孔化している。図11の左側は、最小線幅7 mmのストライプ状のフォトマスクを用いてUV照射を行い発泡させたもの、右側は、UVの照射エネルギーを徐々に増加させて照射し発泡させた発泡フィルムの外観写真である。彼らは、同一発泡倍率ではセル径が0.3~0.4 mmのときに可視光の散乱性が最も強くなり、それ以下の気泡径で散乱効率が急激に低下すると述べている。しかし、現実には、散乱効率に関するセル径の閾値は、セル密度、セルの秩序構造やフィルムの厚みによって異なってくる。Merletらも同様な考えで、tert-butyl基をもち酸と反応して分解性をもつように合成したポニフェニルキノキサリン(PPQ)からナノセルラーフォームを作製している24)。彼らは加熱により分解反応を起こしCO 2やイソブテンを発生させ高分子を発泡させている。しかし、これらの化学発泡法では、10~40 nmのセル構造が得られているものの、空隙率は50%未満と低い。4.4物理発泡法化学発泡法は、発泡剤として使った化学物質の残渣が発泡体中に残留し、VOC規制に抵触したり、リサイクルしづらかったりする。そのため、化学反応を使わない物理発泡法がマイクロセルラーの工業化においても盛んに研究されてきた。この技術の蓄積を活かして、物理発泡法によるナノセルラーフォームの研究も進められた。物理発泡によるナノセルラーフォームの作製手法は、大別すると次のようになる。ⅰ)急減圧操作法、ⅱ)高Tg樹脂使用法、ⅲ)ナノコンポジット法、ⅳ)高分子モルホロジーテンプレート法、ⅴ)結晶構造の延伸法。以下、それぞれの手法に関して説明する。ⅰ)の急減圧操作法は、ガスの溶解時と発泡時の圧力差(減圧差)を大きくし、気泡核生成の駆動力となる過飽和度を大きくすることによって、生成する気泡数を増加させ気泡を微細化させる手法である。イギリスのZote Foam社は、N 2を70 MPaで含浸したあと、減圧してポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの微細発泡製品を製造している25)。また、学術論文などの実験では30 MPa近くから大気圧まで急減圧した微細径の物理発泡体の作製が報じられている26)。しかし、日本国内では高圧装置にかかるコストや安全上の問題から、この手法の工業化はあり得ない。さらにこの減圧法では、気泡の成長を抑えられないため、この手法だけによったナノセルラーフォームの創製はなされていない。ⅱ)の高Tg樹脂使用法は、気泡を発生させる場となる高分子にエンジニアリングプラスチックなど、Tgが高く粘弾性の高いものを使い、気泡の成長を抑制し、気泡を微細な状態にとどめようとする方法である。たとえば、Krausらのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリエーテルイミド(PEI)でナノスケールの孔をもった発泡体が作製できることを示している27)。ⅲ)のナノコンポジット法はナノクレーやナノファイバーを発泡させたい高分子と混ぜ、不均質核生成を増長させる気泡核剤としての役割と高分子の剛性をあげる気泡成長抑制する役割をもたせ、気泡を微細化させる手法といえる。岡本らは、PLAにクレイを混ぜたナノコンポジットからナノセルラーフォームを作製している28)。ⅳ)の高分子モルホロジーテンプレート法でのナノセルラーフォームの先駆的な研究に、横山らの研究がある29)。横山らや瀧ら30)は、共重合体の作るナノスケールのモルホロジーをテンプレートとし、40~80 nm径のナノセルラーフォームを作製している。また、大嶋らはPPとエチレンプロピレンラバー(EPR)のブレンドを発泡し分散するラバー相にナノスケールの気泡ができることを報じている31)。これらの手法はすべて、高分子の海島構造をテンプレートとし、その分散相だけを選択的に発泡させる手法であり、先に説明したテンプレート法と物理発泡法を融合した手法と見なせる。海と島を形成する高分子のCO 2の親和性や溶解度の差ならびにレオロジー特性の差を利用し、気液相分離が起こる場所の選択性を担保している。根本らは、このコンセプトをブレンド系で発展させ、PP/スチレン系エラストマー(PP/SEBS)32)やポリエーテルエーテルケトン/ポリエーテルイミド(PEEK/PEI)を対象系として80~300 nm径のナノセルラーフォームを作製している33)。ジアミンがパラ位にあるPEIは、PEEKとブレンドすると、PEEKマトリクスの中で層状に分散相を形成するという特徴をもつ(図12a)。このモルホロジーをテンプレートとして、気泡をPEI層に局在させて層状の多孔構造を作りだしたのが図12bの発泡体である。上述した手法は、異種の高分子が作り出す構造的不均質性を活用している。ここ数年、同種の高分子でも、高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan617