ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号
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高分子 POLYMERS 62巻10月号
PolySCHOLA測る2限目うことで複雑な応力分布が生じることがあるためです。ダンベル形状にする理由も試料つかみの影響を除外するためです。また、平均値を求めるときに同時に標準偏差も求めて測定値のバラツキを確認してください。論文やレポートに結果を報告するときは、試料の履歴以外に、装置の名称、型番、製造会社、試験片の原長、引張速度、温度(湿度)、さらに特殊な測定の場合にはその条件を記載するようにしてください。6.繊維の引張り強度に関与するポリマーの性質図3応力-ひずみ曲線から何がわかるかひずみを破断応力、破断ひずみ(単に伸びという場合もあります)と呼びます。図の例では破断応力=引張り強度ですが、もしも降伏応力>破断応力の場合は、降伏応力が引張り強度となります。要するに最大応力値=引張り強度ということです。さらに、曲線と横軸で囲まれる面積は、その材料を破壊するのに要するエネルギーに対応して、タフネスを表しています。このように、応力-ひずみ曲線には多くの情報が含まれています。したがって、応力-ひずみ曲線を描くことは高分子固体の力学物性を考える上で基本中の基本になることがおわかりいただけると思います。引張り強度を測定するためには必ず図2のような装置が必要になります。この装置の治具としてBを採用して、クロスヘッドを降下させると曲げ試験(3点曲げ試験)が可能になります。さらに、治具を取り換えて圧縮試験、せん断試験、引裂き試験、応力緩和、接着試験も同じ装置で可能ですし、温度、湿度など雰囲気制御が可能なアタッチメントも用意されています。そこでこの装置は一般に万能試験機とも呼ばれています。さらに、最初にこの装置をつくった会社の名前を冠してInstron型試験機と呼ばれることもあります。5.得られたデータの処理法高分子の力学的性質は、高分子の一次元構造(分子量、化学構造など)から三次元構造(結晶化度、配向など)、高次構造(ラメラ、フィブリルなど)の影響を強く受けます。とくに引張り強度は、同じ力学的性質の中でも、弾性率などに比較すると、大変形させるうちにいろいろな現象が生じるので、比較的値のバラツキの大きい物性であることが宿命です。したがって、フィルムやシートでは最低5試料、繊維では10~30本の試料を測定し、その平均値から引張り強度を求めます。この際、チャック内で切れた試料片の結果は平均値から除外します。これはチャック部分には、つかむとい高分子鎖は鎖の方向には共有結合で原子が連結されています。一方、分子と分子の間にはvan der Waals力や水素結合が働いています。結合エネルギーで比較しますと、共有結合:水素結合:van der Waals力=100:10:1ですから、力学的な異方性もきわめて大きくなります。すなわち、無配向の材料ではまず分子鎖間距離が広がる機構で変形が始まるため、弾性率は低く、強度も高くなりません。さらに、分子運動が激しくなる、ガラス転移温度以上では弾性率、引張り強度は随分と低くなります。一方、外力に対して共有結合が応答すれば、内部回転、結合角の変角、結合長の伸長で分子鎖骨格の変形が起こります。中でも、結合長の伸長が最も起こりにくく、変角、内部回転の順に変形が容易になります。したがって、分子鎖の骨格が直線的で、変形機構として伸長がおもになる場合に引張り強度は高くなります。表1のPBOの化学構造を見てください。左右から加えられる外力に対して骨格が直線的です。引張り強度ベスト3がいずれも繊維であるのは、これら試料中で分子鎖が外力の掛かる方向に高度に配向しているためです。分子鎖自体が柔軟なポリエチレンで引張り強度をとてつもなく高くできたのは、ⅰ)側鎖がなくスリムな構造をしていること、ⅱ)ゲル紡糸という特殊な紡糸法を使って、さらに何十倍~何百倍も延伸することで分子鎖を高度に配向させられたこと、に基づきます。ただし、表1で示したように、弾性率では実測値=理論値がほぼ達成されているのに対して、引張り強度の実測値は理論値よりも随分と低い値に留まっています。これには高分子の微細構造の複雑さが影響しています。図4には、繊維の極限構造と実在構造を模式的に示しました。左側の極限構造では欠陥は分子末端だけです。超高分子量体を用いますと、その欠陥も減ることになります。表1のポリエチレンの理論強度31 GPaはこの構造に対して、分子鎖がいっせいに切断されることが仮定されています。それに対して、右側の実在繊維では分子鎖はおおむね上下の方向に配向していますが、それでも折りたたまれたり、あっちに向いたりこっち高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan623