ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻10月号
- ページ
- 43/82
このページは 高分子 POLYMERS 62巻10月号 の電子ブックに掲載されている43ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 高分子 POLYMERS 62巻10月号 の電子ブックに掲載されている43ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
高分子 POLYMERS 62巻10月号
私の本棚からFrom My Bookshelf■若手に是非読んでもらいたい本土井正男のおすすめ北京航空航天大学教授分野:物理学書籍名:表面張力の物理学―しずく、あわ、みずたま、さざなみの世界―著者名:ドゥジェンヌ、ブロシャールーヴィアール、ケレ著奥村剛訳出版社:吉岡書店出版年:2003年価格:4,500円ドゥジェンヌの本は、どれも、私を新しい世界に導いてくれた。超伝導の本も、液晶の本も、高分子の本も、エレガントな数式を使って現象を解き明かし、物理の面白さと素晴らしさを私に教えてくれた。彼の本は、どれも傑作と言えるが、その中で最高傑作を選べと言われれば、私はためらいなく表題の本を選ぶ。しずく、あわ、みずたま、さざなみの世界は、私たちが見慣れたはずの世界である。雨上がりの日にクモの巣についた水玉のきれいな輝き、シャボン玉の中に見える虹色模様、列車の窓ガラスを垂れてゆく雨だれの不思議な動き、などは、私たちが子供のときに感動し、不思議に思ってきたことである。この本は、そういう現象を題材に、表面張力の関与した現象を、丁寧にかつ筋道だてて解き明かしてくれている。液体の表面、液体と固体の界面、接触線、界活性剤の役割などの基本的なことだけでなく、薄膜の流体力学、接触線運動、撥水、さらには液体の浸透、粘弾性効果、熱や化学エネルギーで駆動される運動など、最先端の研究についてもバランスよく、手を抜くことなく解説されている。印刷、コーティングなど、高分子の応用としてこれからますます重要になっていく部分の基礎を、身近な題材を元に、教えてくれるのである。題材の選び方、説明のうまさ、そして構成の確かさなど、どれをとっても、他に類を見ない完成度の高い本である。さらに、前書きには、筆者らがこの本を書く動機となった強い思いが、抑えた筆致で書かれている。心に沁みる名著と言える。■私の役に立った本古川英光のおすすめ山形大学大学院教授分野:物理学書籍名:パーコレーションの基本原理(第2版・原著修訂版)(物理学叢書)著者名:D.スタウファー(著)A.アハロニー(著)小田垣孝(翻訳)出版社:吉岡書店出版年:2001年価格:4,515円コーヒー好きな人は、淹れ方にこだわります。コーヒーを淹れる道具を「パーコレーター」と呼びますが、「パーコレーション」は「浸透」と訳されます。コーヒーの粉に注がれたお湯は、粉と粉のすき間に染み込みながら全体に行きわたっていきます。このような現象を科学的に調べて「浸透理論」が生まれました。この理論は、美味しいコーヒーの淹れ方だけでなく、山火事の広がり方、病気の伝染の仕方、ゼリーの固まり方の研究にも利用できます。この本の魅力は、数式がやさし目なことです。紙とペンを用意すれば途中の計算を追うことができ、浸透現象をわかった気持ちになります。私はこの「わかった気持ち」になることが大切だと考えます。昨今、エンジニアや研究者に求められる力は、深い専門性に加え、壁を乗り越える力や研究力だと言われます。私はこの本の数式を手計算で追えたときに「壁を乗り越えた」と感じることができました。ほかの方にもその体験を味わっていただけたらと願います。さて、今月から「私の本棚から」が始まります。この欄は若い学生や社会人のみなさまに、高分子への興味を深めて欲しいという願いから生まれました。高分子が大好きな執筆者にお願いして、とっておきの本をご紹介いただきます。高分子が好きな人は、読み方にこだわります。若い会員に注がれた高分子への想いが、人と人の間に染み込んで全体に行きわたっていくことでしょう。本欄のご愛護をよろしくお願いいたします。高分子62巻10月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan625