ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
- ページ
- 13/80
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている13ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
高分子 POLYMERS 62巻11月号
展望COVER STORY: Highlight Reviews特集最新可視化技術で高分子を探る1分子DNAは、ぐちゃぐちゃな構造?谷口正輝大阪大学産業科学研究所バイオナノテクノロジー研究分野[567-0047]茨木市美穂ヶ丘8-1教授,博士(工学).専門は1分子科学,ナノテクノロジー.taniguti@sanken.osaka-u.ac.jpwww.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp/タンパク質の構造は創薬の基盤であり、詳細な構造を得るためには、結晶構造解析が必要である。結晶を必要としないで、1分子で構造解析できる技術は、創薬に革命的なインパクトを与える。現在、溶液中の1分子の構造解析を行う技術が、ナノポアを用いて開発されはじめている。本稿では、注目が集まるDNAの1分子構造解析について解説する。1.はじめに2003年のヒトゲノム計画の完了は、遺伝子に基づく革新的な診断法と新薬を生み出す個別化医療の幕開けと期待された。ところが、ゲノムの塩基配列を決定するDNAシークエンサーのコストとスピードが、個別化医療の前に立ちはだかった。この大きなハードルを突破するため、次世代DNAシークエンサーの開発が世界中で進められている。確かに早くて安いDNAシークエンサーは、個別化医療に必要不可欠であるが、診断法とともに治療法も開発されるのが理想的である。たとえば、治療法の一つとして新薬を開発しようとすると、病気に関連するゲノム情報、ゲノムが生み出すタンパク質、さらにタンパク質の構造の三点セットが必要となる。しかし、ゲノムからタンパク質の構造にたどり着くまでの道のりは険しい。病気に関連するゲノムを探し当てるだけでも大変で、タンパク質の構造を調べるためには、X線結晶構造解析法などによる原子レベルの微細な構造解析が必要になる。簡単な有機分子の結晶作製と構造解析ですら時間がかかるのに、タンパク質の結晶作製と構造解析に膨大な時間がかかるのは容易に想像がつく。もしも、1分子で、しかも溶液中でタンパク質の構造解析ができればどうだろうか?この場合、病気に関連するゲノムを発見して、タンパク質の発現に成功すれば、極微量の、原理的には1分子のタンパク質で構造情報が得られることになる。この夢のような構造解析法の開発は、すでに始まっている。次世代DNAシークエンサーが、1分子科学に基づく原理で動作するのと同様、1分子構造解析法も1分子科学に基づく。そして、その1分子科学を実現するプラットフォームが、ナノポアである1)~4)。2.1分子構造解析法2.1ナノポアによる構造解析の原理細胞膜の表面には、無数のナノスケールの穴が空いている。この穴は、膜貫通タンパク質が作る直径数ナノメートルの穴で、バイオナノポアと呼ばれている(図1)。バイオナノポアは、イオン、薬剤分子等の低分子、DNA・RNAを、1分子で認識し、細胞の内外に出し入れする機能をもっている。薬が細胞の中に入れるかどうかが、薬が効くか効かないかを決めるため、バイオナノポアは広く生理学で研究されている。バイオナノポアを用いる1分子構造解析の原理は、非常に簡単である(図2)。ポリマー膜に直径数ミクロンの貫通孔を空けて、その上に細胞膜を形成し、膜貫通タンパク質が貫通したデバイスを作る。デバイスの上下は、生理食塩水などのイオン溶液で満たされている。デバイスの上下に、それぞれ1本の電極を配置して電流を計測すると、ナノポアの中をイオン電流が流れる。ナノポア内に分子が存在しなければ、一定のイオン電流が流れ続けるが、ナノポア内に分子が存在すると、イオンの流れが妨げられて、イオン電流が減少する。イオン電流の減少量は、ナノポア内に占める分子の体積に比例するため、たとえば、同じ体積をもつ2個の分子がナノポアを通過するときに得られるイオン電流変化は、1個の分子が与えるイオン電流変化の2図1ナノポアの構造.(a)バイオナノポアと(b)固体ナノポアの構造.バイオナノポアにおけるナノポアの直径は,約1 nm.固体ナノポアにおけるナノポアの直径は,数nm以上であり,微細加工技術により自由に変えられる.高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan663