ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

COVER STORY: Highlight Reviews展望図2ナノポアによる1分子構造解析の原理.(a)イオン電流の減少量は,ナノポアを通過する物質の体積に比例する.図は,物質が負に帯電する場合のイオン電流変化を示している.(b)大きな1分子がナノポアを通過するときに得られるイオン電流変化は,1分子の断面積に対応する.図3ナノポアを用いた1分子DNAの構造解析.(a)DNA水溶液を計測したイオン電流の時間変化.(b)イオン電流-時間グラフの拡大図.Ipとtdは,それぞれ,ピーク電流とイオン電流の持続時間.(c)複雑な構造をもつ1分子DNAに対応するイオン電流の時間変化.倍になる。この原理を用いて、長い分子がナノポアを通過するときのイオン電流変化を連続的に追跡すると、長い分子の断面積が連続的に求められる。これが、1分子構造解析の原理であり、健康診断で用いられるCTスキャンを1分子で行うイメージである。ナノポア内は溶液で満たされているため、生理環境に近い状態で1分子の構造解析を行うことができる利点をもつ。バイオナノポアは、優れた1分子認識能力をもつが、ナノポアの直径は膜貫通タンパク質の固有の大きさであるため、構造解析できる分子が限られてしまう。1分子構造解析に必要な構造は、ナノポアと1対の電極なので、現在では、シリコン基板やグラフェン上に作製された固体ナノポアが用いられている。固体ナノポアは、バイオナノポアより優れた耐久性と強度をもち、微細加工技術を用いて作製されるため、ナノポアの直径を自由に変更できる大きな利点をもつ。2.2ナノポアによる1分子DNAの構造解析溶液中における1分子構造解析の目指すところは、もちろん原子レベルの構造解析だが、まだまだ越えなければならないハードルは多い。一方、疾病の診断と生体分子の構造という観点では、ある特定のDNAとタンパク質の相互作用の解析、つまり、DNAとタンパク質の複合体の検出が重要である。構造解析したいのは、1分子のDNAとタンパク質の複合体1分子であり、構造解析の出発点は、1分子DNAがナノポアを通過するときのイオン電流変化量の決定である。ところが、DNAは、直径2 nmの円柱ではなく、塩濃度やカチオン種などの溶液環境に強く依存して構造が大きく変化する。さらに、生体高分子であるDNAの構造は、ぐちゃぐちゃな構造であることが予測される。ナノポアは、この複雑な構造を1分子レベルで捉えることができるのであろうか?実験は、直径約50 nmの固体ナノポアを用いて行われた5)。DNA水溶液をナノポアに流して、イオン電流の時間変化を計測すると、スパイク状のシグナルが観察された(図3a、b)。シグナルは、ピーク電流値(I p)と電流持続時間(t d)で特徴付けられ、t dは、DNAがナノポアを通過する時間をあらわしている。500個程度のI pをもとにヒストグラムを作製すると、20 pAと41 pAにピークが観察された。1分子計測では、1分子、2分子とカウントできるので、観察されるイオン電流変化量は、1分子に対応する最小ピーク電流値の整数倍になる。整数倍のイオン電流変化量は、納得しやすく、量子化という言葉が思い浮かぶかっこいい条件だが、最小ピークの整数倍という条件は、うっかり忘れがちである。20 pAより小さいところに小さなピークがある664 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)