ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
展望COVER STORY: Highlight Reviews場合、20 pAが、1分子に対応するかどうかを十分に考えなければならない。この実験では、20 pA以下にピークは存在しないので、1分子DNAがナノポアを通過するときのイオン電流変化量は20 pAとなる。イオン電流変化量が、ナノポアを通過する分子の断面積に比例するので、n回折り畳まれたDNAがナノポアを通過するとき、20 pA×(n-1)のイオン電流変化が観察されることになる6),7)。DNA水溶液のイオン電流計測で得られた電流-時間プロファイルを詳細に解析すると、非常に複雑なイオン電流変化を示すものがあった。1分子DNAのイオン電流変化量が20 pAであることを用いて、1分子DNAの構造を解析すると、1分子DNAは複雑な構造をもつことがわかった(図3c)。1分子DNAがナノポアを通過するときのイオン電流変化量がわかったので、DNAとタンパク質の複合体の構造解析はできそうである。DNAと同様の方法で、平均直径7 nmのタンパク質1分子がナノポア通過するときのイオン電流変化量が求められた8)。次に、DNAとタンパク質の複合体1分子の構造が、直径30 nmの固体ナノポアを用いて調べられた。DNAの直径は約2 nmで、タンパク質の断面積が10倍以上大きいため、イオン電流の変化から、直線状のDNAにタンパク質が結合する部分と結合しない部分からなる複合体の形成が明確に観察された8)。この実験では、解析できる構造の空間分解が低いため、タンパク質が、DNAのどの塩基配列領域に結合するかまではわからない。しかし、高い空間分解能が得られるようになると、タンパク質と相互作用する遺伝子の探索が可能となり、ナノポアを用いた構造解析は、疾患関連遺伝子を高速探索する革新的な方法になると期待される。3.原子レベルの1分子構造解析に向けてナノポアを用いた1分子構造解析は、1分子のCTスキャンのイメージである。1分子の詳細な構造を調べるためには、いかに薄くスライスした断層画像を得られるかがポイントになる(図4)。この条件をナノポア構造に焼き直すと、ナノポアの厚みを薄くすればするほど、詳細な断層画像が得られると期待される。究極的には1原子層の厚みをもつナノポアが形成されれば良く、グラフェンはまさに理想的なナノポアの構造材料である。単層グラフェン上に作製されたナノポアを用いて、DNAのイオン電流変化が計測され、DNAの折り畳み構造が観察された9),10)。しかし、期待する原子レベルの構造解析は未だ実現されていない。図4ナノポアによる高い空間分解能をもつ1分子構造解析.ナノポアの厚みが薄くなればなるほど,得られる構造の空間分解が高くなる.ナノポアによる構造解析の空間分解能は、イオン電流変化量の時間分解で決められるため、1分子がナノポアを通過する間にどれだけ早くイオン電流を計測できるかが勝負になる。しかし、数10 pAレベルのイオン電流を計測する速度は、理論的に最速で1 ms程度までである。計測速度が頭打ちするので、1分子がナノポアを通過する速度を遅くすることが、高い空間分解能を得る方法である。現在、ナノポアを通過する1分子の速度制御技術の開発競争が激化しているが3)、ナノ空間における1分子の流動ダイナミックスの基礎科学は、ようやく研究され始めたばかりである。夢の1分子構造解析法の開発にはもう少し時間がかかる。文1)D. Branton, et. al., Nat. Biotechnol., 26, 1146(2008)2)C. Dekker, Nat. Nanotechnol., 2, 209(2007)3)B. M. Venkatesan and R. Bashir, Nat. Nanotechnol., 6, 615(2011)4)M. Zwolak and M. Di Ventra, Rev. Mod. Phys., 80, 141(2008)5)M. Tsutsui, Y. He, M. Furuhashi, S. Rahong, M. Taniguchi, and T.Kawai, Sci. Rep., 2, 394(2012)6)C. H. Reccius, S. M. Stavis, J. T. Mannion, L. P. Walker, and H. G.Craighead, Biophys. J., 95, 273(2008)7)R. M. M. Smeets, U. F. Keyser, D. Krapf, M. -Y. Wu, N. H. Dekker, andC.Dekker,NanoLett.,6,89(2006)8)S. W. Kowalczyk, A. R. Hall, and C. Dekker, Nano Lett., 10, 324(2010)9)G. F. Schneider, S. W. Kowalczyk, V. E. Calado, G. Pandraud, H. W.Zandbergen, L. M. K. Vandersypen, and C. Dekker, Nano Lett., 10,3136(2010)10)S. Garaj, W. Hubbard, A. Reina, J. Kong, D. Branton, and J. A.Golovchenko, Nature, 467, 190(2010)献高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan665