ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

COVER STORY: Highlight Reviews展望特集最新可視化技術で高分子を探るここまできた電子線トモグラフィー―メゾスケール構造をいかにみるか?―陣内浩司JST ERATO高原ソフト界面プロジェクト/グループリーダー(技術参事兼任)九州大学先導物質化学研究所/特任教授,博士(工学).[819-0395]福岡市西区元岡744九州大学(伊都キャンパス)CE80棟専門は高分子物性,電子顕微鏡.hjinnai@cstf.kyushu-u.ac.jphttp://muse.ifoc.kyushu-u.ac.jp/JLAB/JINNAI_LABORATORY/Welcome.html近年、高分子の不均一構造を三次元的に可視化することで高分子材料の評価・解析に資する一連の顕微鏡群が注目を浴びている。本稿では電子線トモグラフィーを取り上げ、最近とくに発展の著しいメゾスケール(数百nmのスケール)構造の三次元可視化に焦点を当て、この手法の最近の進歩について紹介する。1.はじめに高分子(機能)材料の発展は、精密合成技術の発展1)にともなう新規ナノ相分離構造の創成、リアクティブプロセッシングによる特異な物性・機能をもつ新規材料の登場など、ポリマー自体の改良やプロセッシング技術の向上による新しい展開を迎えている。他方、粘土などの無機物質を高分子中に分散させて耐火性・高弾性率・気体遮へい性などの機能を付与したり2)、ゴムマトリックスにカーボンブラック(CB)やシリカナノ粒子などを混合し機械強度や電気伝導性を付与した材料3)など、種々の“ナノコンポジット材料”なども実用的な観点から重要な高分子材料である4)。このようなさまざまな高分子材料内には、相分離構造、結晶・球晶構造、非晶構造などのさまざまな高次構造が存在し、これらの不均一構造が材料のさまざまな物性に大きな影響を与えることはよく知られている。したがって、不均一構造と材料物性との間に存在する相関を解明することが重要であることは言うまでもない。しかし、現状では、この関係はあまり明らかとは言えない。それは、材料の物性を測定することが比較的容易であるのに対し、不均一構造を正確に評価・解析することが困難であることに一因がある。不均一構造の観察・解析のためにさまざまな手法が提案されているが、結局のところ、三次元構造である不均一構造を「三次元のまま」観察するのが手っ取り早い5)~7)。過去10年間ほどの間に、不均一構造の三次元可視化を可能とするとするさまざまな顕微鏡法(三次元顕微鏡法)が急速に発達してきた。筆者らのグループは、これまで透過型電子線顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy,*は、e!高分子のSupporting Informationにハイパーリンクされています。TEM)に断面撮影法(Tomography)を組み合わせた電子線トモグラフィー(Electron Tomography, ET)を開発し8)、これを高分子ナノ構造に応用することで学術的成果をあげてきた。しかし、高分子材料の多くは階層的な構造をもち、材料の諸特性は材料内部のnmメートルから数百nmスケール(“メゾスケール”)の三次元構造によって大きく左右されている。たとえば、前出のナノコンポジット材料では、フィラーが凝集し(数十nm程度の大きさ)、この凝集体がさらに連結して複雑な不均一構造を作っており、この数百nm以上の高次構造がコンポジットの特性の多くを担っていると言われている。(加速電圧200 kV程度の)汎用電子顕微鏡をベースにしたETではメゾスケールの三次元可視化は難しいとされてきた。最近、メゾスケールの三次元可視化を可能とする評価手法が提案され、成果をあげつつある9)~11)。本稿ではETによるメゾスケール構造の三次元可視化における最近の動向を述べることにしたい。2.メゾスケール高分子階層構造の三次元観察本稿では、階層的構造をもつ高分子材料の代表例として、アクリロニトリル(A)-ブタジエン(B)-スチレン(S)共重合合成樹脂(ABS樹脂)を取り上げる。超薄切片法によるABS樹脂のTEM観察がこれまで数多く行われてきた。その結果、TEM像において直径数百nmのB球状ドメイン中にSまたはAの小さなドメインが見られることが明らかとなっている。この断面形状がサラミソーセージの断面のように見えることからABS樹脂の構造は“サラミ構造”と呼ばれることが多い。ABS樹脂の階層構造としては(ⅰ)Bの球状ドメイン内部のAやSの作る微細構造、および(ⅱ)B球状ドメインの空間分布、の二つが重要とされている。しかし、従来の(透過型)ETでは観察可能な試料の厚みが(電子線の透過力のため)数百nmに制限されているため、メゾスケール領域の階層構造であるB球状ドメインの空間分布の三次元観察も困難であった。666 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)