ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
展望COVER STORY: Highlight Reviews図1BF-SETにより得たABS樹脂の三次元像.(a)および(b)は三次元像を望む角度を変えたもの.画像のサイズは2.2 m,2.3 m,0.5 mである.図1に走査型電子線トモグラフィー(Scanning ElectronTmography, SET)により得られたABS樹脂の三次元再構成データを示す11)。厚さ“1 mm”に切削された電子顕微鏡用切片内にB球状ドメインが分散している様子がよくわかる。数百nmの直径をもつB球状ドメインの空間分布もよく捉えられている。図1では表示の関係上あまり明らかではないが、Bよりなる巨大球状ドメイン中の微細ドメインは連続相ではなく孤立相であることも判明した。本研究では三つの異なる光学セッティングを用いて三次元像を撮影した。これらは、ET、BF(bright field)-SETおよびDF(dark field)-SETであり、ETでは照射角度、SETでは電子ビームの収束角を調整することにより試料位置での焦点深度を約1.6mmとした。取込角はETでは1.4 mrad、BF-SETでは6.5mrad、DF-SETでは150 mradである。BF-SETでは比較的角度の小さいところに散乱する電子を、DF-SETでは広角側のそれを用いて結像させた。DF-SETは光学顕微鏡の“暗視野”検鏡でありに対応し、重元素ほど明るいコントラストとなることから、STEMではよく用いられる手法である。図2には、各々の光学セッティングに対して、試料表面から100 nm、500 nmおよび900 nmの深さに位置するB相の断面図を示した。表面から100 nmの位置では、SETに対してETは結像レンズ系の色収差に起因して空間分解能が低い。一方、500nmおよび900 nmの断面像では、ETに比べてSETの空間分解能が低い。この傾向はBF-SETに対してDF-SETのほうが顕著であることも興味深い。詳細は論文に譲るが11)、SETでは主として電子の試料内での多重散乱のために電子ビームの径が増大することによる分解能の著しい低下が起こっていると考えられる。この分解能の低下は、電子顕微鏡の対物レンズを(分解能を多少犠牲にした)長焦点タイプに変え、光量を稼ぐことで改善することができる(図2の右端の列)。3.メゾスケール三次元可視化の今後前節(2節)で紹介したように、電子線トモグラフィーにおいては(S)ETに長焦点光学系を導入した次世代図2SETにより撮影されたABS樹脂三次元像の断面スライス像.黒い部分はOsO 4により染色されたB相である.行と列は,それぞれ,異なる光学セッティングおよび表面からの深さに相当する断面像である.第1行,第2行,第3行は,試料表面からそれぞれ100 nm,500 nm,and 900 nmの深さの断面像(試料の厚みは1m).左端の列は,焦点深度を1.6 mに調整した透過型検鏡でのET観察である.左から2番目および3番目の列にはSETにより得られた画像を示すが,取り込み角が異なる.右端の列は左の三つとは異なる対物レンズを用いた結果.それぞれの光学セッティングについては本文および文献に詳しい11).スケールバーは300 nmである.の電子線トモグラフィー装置の開発が始まりつつある。加速電圧200 kV程度の汎用装置で(一般に信じられてきたよりも)十分に厚い試料の三次元観察が可能であることが示された。しかし、試料の厚み方向に著しい分解能の低下が起こるなど、SETの問題点も明らかとなった。このように、メゾスケールに存在する不均一構造を定量的に三次元観察・評価することはまだまだ難しい。しかし、高分子材料の重要な機能がメゾスケールの不均一構造に起因することが多いことも事実であるから、このスケールでの三次元観察法の充実は今後も望まれるであろう。BF-STEMにおいて取込角を小さくすることにより分解能の低下を抑制でき、図2にあるような多重散乱による分解能の低下を抑えられることが予想されており11)、予備的検討結果ではその効果を確認することができる(図3)。全国の大学には共同利用施設として加速電圧を1000kV以上にまで上げることのできる電子顕微鏡がある。このような超高圧電子顕微鏡(High Voltage ElectronMicroscopy、HVEM)は、高電圧で電子を加速することで波長の短い電子線を試料に照射し、原子分解能を達成することを目的としていた。しかし、近年の収差補正レンズの発明により、超高分解能観察という点ではHVEMは主役の座を奪われてしまった感がある。そこで、HVEMをトモグラフィーという視点で見直してみると、この装置は、通常の(200 kV級の)TEMに比高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan667