ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
展望COVER STORY: Highlight Reviews特集最新可視化技術で高分子を探る量子ビームによる高分子複合材料解析への新展開岸本浩通住友ゴム工業(株)材料開発本部材料第三部[651-0071]神戸市中央区筒井町2-1-1主査.専門はゴム材料への量子ビーム応用と材料構造研究.h-kishimoto.az@srigroup.co.jpwww.srigroup.co.jp/高分子複合材料は、広い時間・空間スケールにわたり階層構造を形成し機能を発現させている。量子ビームを応用した材料研究は、高機能材料開発に新しい切り口を与えると考えられる。本稿では、高分子複合材料への量子ビームを活用した時空間構造解析について紹介する。1.はじめに高分子複合材料は、高分子単独では得られない機能や性能をもつことから、産業や生活において重要な役割を果たしている。高分子複合材料の機能や性能は、高分子に添加された無機充填材やその界面、添加剤が複雑に関与することによって発現している。そのため、高分子中に添加された各種材料の構造や相互作用の理解は、高機能材料を開発するうえで重要となってくる。高分子複合材料の研究は、これまで多くの研究がなされ目覚ましく発展してきている。近年、SPring-8に代表される高輝度X線を利用した研究は、従来の分析手法では困難な多くの知見が得られるため、高分子および高分子複合材料への研究応用は拡大の一途をたどっている。たとえば、小角X線散乱法(Small-AngleX-ray Scattering:SAXS)においては、我々が実験室で計測できる空間スケールが最大でも100 nm程度であるのに対し、放射光X線を用いれば数ミクロンオーダーまでの構造情報を得ることができる。さらに、放射光X線を用いればマイクロビームが比較的容易に用いることができ、高分子結晶や材料界面の研究に威力を発揮している1)。そのため、高分子材料、とくに高分子複合材料において、内部で形成される複雑な階層構造を捉えることができるため、それらを制御することで新たな機能や性能を付与した新材料の開発も進んでいる。逆空間構造情報が得られる散乱実験に対し、実空間で直接的に構造情報が得られるX線イメージングの発展も目覚ましい。X線領域では、屈折率が1よりわずかに小さい程度なので、通常の屈折レンズを用いることができないため、微細な構造観察が苦手とされてきた。しかし、フレネルゾーンプレート(Fresnel ZonePlate:FZP)などの光学素子の発展にともない、X線イメージング法の材料研究への応用が拡大している。散乱法とイメージング法は、逆空間と実空間の関係にあり、それぞれの特徴を活かした相補研究は、非常に有力な手法になる。さらに近年では、放射光を利用したコヒーレントX線によるダイナミックス計測から、材料機能の研究が行えるようになってきている。本稿では、筆者らが行ってきた放射光研究を中心に、量子ビームを用いた時空間構造解析と今後の展望について述べたい。2.小角X線散乱法と可視化SAXSは、試料にX線を入射した際の散乱角が数度以下の散乱X線を測定する手法である。小さな散乱角の散乱X線を測定することは、実空間で大きな構造を測定することに対応している。高分子および高分子複合材料は、広い空間スケールにわたって階層構造を形成し、その機能を発現している。そのため、より大きな構造情報を得ることは、階層構造を理解するうえで重要となる。X線散乱法を用いて大きな構造情報を計測する手法は、極小角X線散乱法(Ultra-Small-Angle X-rayScattering:USAXS)と呼ばれ、実験室系においてはBonse-Hartカメラなどの特別な光学系が必要であった。しかし、現在では放射光を利用することで、mmオーダーまでの構造情報が得られる二次元極小角X線散乱を容易に測定できるようになってきた2)。本節では、筆者らが行ってきたフィラー充填ゴムに応用した事例を中心に説明する。2.1ナノ粒子充填ゴムの階層構造高分子にカーボンやシリカなどのナノ粒子(フィラー)を配合すると、力学特性や繰り返し変形時のヒステリシスロスが増大する「補強効果」を示すことが知られている。このような性質は、図1に示すように幅広いスケールにわたって形成される空間階層構造に対応して発現していると考えられる。透過型電子顕微鏡(TransmissionElectron Microscope:TEM)を用いることで、実空間で詳細な観察が可能である。しかし、視野やサンプルの制限から、局所的な情報に限られてしまう。近年、三次元TEM(TEM Tomography:TEMT)の発展により、TEMでは得ることができなかった三次元情報が高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan669