ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
展望COVER STORY: Highlight Reviewsメージング法は、レントゲン撮影やX線CT撮影に代表されるように、医療や産業において欠くことができない手法である。近年、放射光X線を利用し、FZPなどの集光光学系を用いることで100 nm以下の空間分解能が達成され、材料構造研究に活用されている8)。X線イメージングでは、電子密度分布が画像として得られるが、物質間の電子密度差が少ない場合は、十分なコントラストが得られない。そこでより高コントラストな像を得るために、Talbot干渉計、Zernike位相子などを用いた位相コントラスト法の研究が進んでいる9)。ここでは走査型微分位相顕微鏡を紹介する。物質界面にX線を照射すると、わずかながら屈折が起こる。図5に示すように、FZPにより集光したマイクロビームX線を材料に照射した場合、物質界面で屈折が起こり検出器面上でビーム重心位置が変化する。この重心位置の変化は、物質間の密度差に関係している。試料を走査しビーム重心の変化を計測すると図に示すような微分型のプロファイルが得られる。これを線積分し画像化すると、わずかな密度差でも高コントラストな画像が得られる。図6にスチレン-ブタジエン共重合体とイソブチレン-イソプレン共重合体のブレンド材料をCT撮影した結果を示す。空間分解能は50 nm程度である。通常のX線吸収法では観察することが困難な構造を、走査型微分位相差顕微鏡を用いて観察できている。X線は透過力が高く、本手法はX線が透過すれば観察視野に制限がないため、材料の広い領域を高分解能で観察が可能という特徴を有している。今後、階層構造を形成する高分子複合材料を研究するうえでは重要な手法になると考えられる。4.ダイナミックス計測の進展物質の機能は、構造だけでなくダイナミックスが大きく関与している。さらに、構造的なわずかな違いがダイナミックスを大きく変化させていることも多い。まさに、高分子複合材料は、さまざまな時空間スケールにおいて複雑に絡み合って物性を発現しているため、構造とダイナミックスを複合的に理解することが重要である。近年の放射光源の発展にともない、コヒーレントX線を利用した動的光散乱法に対応するX線光子相関分光法(X-ray Photon Correlation Spectroscopy:XPCS)が可能になり、ゴム中でのナノ粒子のダイナミックス観察にも応用されている10)。とくにヘテロダインXPCSを利用することで、延伸ゴム中でのナノ粒子ダイナミックスを計測することも可能となっている11)。一方、現状では時間分解能がおおよそミリ秒以上のゆっくりとしたダイナミックスに限定されているため、たとえば中性子準弾性散乱を用いたナノ粒子表面の高分子鎖のダイナミックス観察12)などとの相補的な利用をすることで、時空間階層構造の理解の進展が期待される。5.おわりに量子ビームは高分子複合材料解析において、実験室の分析装置では得られなかった新しい知見を与えてくれる。現在では、J-PARCにおける中性子を用いたダイナミックス計測技術やSACLAなどのX線自由電子レーザーから発振されるコヒーレントX線を用いた回折顕微鏡などの研究が進んでいる。将来、分子レベルにおけるイメージング情報やダイナミックス計測データをベースに、京コンピューターに代表される大型計算機を用いたシミュレーション技術が発展すれば、高分子複合材料中の非常に複雑な現象の理解や解明が進み、高機能材料の開発が大きく進展するものと思われる。最後に、このような研究が可能な先端研究施設が一堂に会しているのは世界的にも日本しかなく、独創的な研究と技術の持続的発展が可能と筆者は考える。図6図5走査型微分位相X線顕微鏡の概念図配合中のZ n O3 0μmSBRIIR2μmSBR/IIRブレンド系を走査型微分位相X線顕微鏡を用いてCT観察した際の再構成像文1)Y. Nozue, et al., Macromolecules, 40, 2036(2007)2)Y. Shinohara, et al., J. Appl. Crystallogr., 40, s397(2007)3)H. Jinnai, et al., Macromolecules, 43, 1675(2010)4)G. Beaucage, J. Appl. Crystallogr., 28, 717(1995)5)http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2011/1112126)R. L. McGreevy, J. Phys.: Condens. Matter, 13, R877(2001)7)K. Hagita, et al., J. Phys.: Condens. Matter, 19, 330017(2007)8)H. Kishimoto, et al., Polym. J., 45, 64(2012)9)百生敦,放射光, 23, 382(2010)10)篠原佑也,高分子, 60, 178(2011)11)F. Ehrburger-Dolle, et al., Macromolecules, 45, 8691(2012)12)T. Glomann, et al., Phys. Rev. Lett., 110, 178001(2013)献高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan671