ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集最新可視化技術で高分子を探るここまでできるポリマー1分子のイメージング!篠原健一北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科[923-1292]能美市旭台1-1准教授,博士(工学).専門は高分子化学,機能性高分子合成,1分子イメージング.shinoken@jaist.ac.jpwww.jaist.ac.jp/ms/labs/shinohara/1.ポリマー1分子の直視1分子の直接観測は、分子の構造と機能に関する理解を深化させる。近年生物物理学の分野では、生体高分子の1分子イメージング研究によってタンパク質などの有する機能の理解が進んでいる。これらのバイオ研究に触発された筆者は、これまでにポリマー1分子のイメージング研究を走査プローブ顕微鏡法や全反射型蛍光顕微鏡法などを駆使して展開している。たとえば、キラルらせん高分子鎖1本の高次構造とその動態さらに光分解反応の動態を1分子イメージングによって明らかにした1)。本稿では、筆者らの最近の研究成果を紹介する。2.LDPE長鎖分岐の直接計測ポリマー材料の物性は高分子鎖の構造と強く相関しており、分岐構造を有する場合では分岐鎖長や分岐数などの微細構造によって材料物性は大きく変化する。しかしながら、高分子の構造が複雑であることと同時に分析法の限界から、とくにポリエチレンの長鎖分岐(LCB)の微細構造は未解明であった。そこで本研究では、ポリエチレンLCB構造の解明を目的とした。具体的には、チューブラー法やベッセル法で製造された低密度ポリエチレン(LDPE)の高分子鎖1本の図1ポリエチレン長鎖分岐の直接計測構造をポリマー用高速原子間力顕微鏡(ポリマー高速AFM)2)によってイメージングし、ポリマー1分子中に存在するLCBの長さ、分岐点の位置と分岐点間隔を直接観測した。図1に、チューブラーLDPE(分別試料、M w /M n:~1.2)の1分子イメージングと構造解析の結果を示す。本ポリマーは、従来の分析法(GPC-MALLS-[η])より1分子中に平均3.4本のLCBの存在が推定されている。そして1分子イメージングの結果、分岐構造体の観測に成功し、分子サイズなどからポリマー1分子であることが確認された。さらに、1分子中の鎖末端と分岐点にナンバリングして各々の間隔を計測したところ、162 nmの主鎖に3本のLCBが確認され、各LCBの長さは10、31、18 nmと計測された。またLCB間隔は、33および14 nmであった3)。本研究でLCBは直接計測できることが実証された。今後、観測数を増やすことでその分布が明らかになる。3.ミクロブラウン運動の解析しなやかな高分子鎖1本の動態の解析に成功した4)。まず、ポリマー高速AFM 2)によって基板上のキラルらせん高分子鎖1本の構造動態を室温のn-オクチルベンゼン中で観測した(図2a)。次いで、高分子鎖の体幹を等分割し各点の軌跡を計測した(図2b)。図中の点1は重心、点2は鎖末端、点10は鎖中央を示す観測点である。ある時間(Δt)における平均二乗変位(MSD)をΔtに対してプロットした(図2c)。その結果、D 1=2.7nm 2 /s、D 2=110 nm 2 /s、D 10=17 nm 2 /sと計測され、この高分子鎖の末端は中央部に比べ6.5倍ミクロブラウン運動の拡散係数が高いことがわかった。一方、高分子鎖の重心の運動つまりブラウン運動の拡散係数D 1は鎖末端D 2に対して約1/40であった。この高分子鎖のダイナミックスは、固液界面における高分子鎖の動的多点相互作用とブラウン運動であり、エンタルピー/エントロピー補償によるものと推定している。また、界面における高分子鎖の構造動態の理解は、接着・粘着現象などの解明につながる。*は、e!高分子のSupporting Informationにハイパーリンクされています。高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan673