ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

ページ
25/80

このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている25ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集最新可視化技術で高分子を探る三次元相分離構造を可視化するX線位相CT百生敦東北大学多元物質科学研究所[980-8577]仙台市青葉区片平2-1-1教授,博士(工学).専門はX線光学.momose@tagen.tohoku.ac.jphttp://mml.tagen.tohoku.ac.jp/1.はじめにX線断層撮影法(X線CT)は、物質を周回する各方位からの投影像を取得し、物質内部の吸収係数分布を、コンピューターを使って再構成(可視化)する方法であり、切らずに断面を観る方法として広く活用されている。連続した断面位置で複数の断層像(CT像)を取得して重ね合わせると、内部構造も含めた三次元画像が構成できる。病院のCTスキャナは身近なものであるが、材料科学などの学術分野でもX線CTは活用されており、とくに数μmあるいはそれ以下の空間分解能を有するところが医療用とは異なる。市販されているX線マイクロCT装置を用いれば実験室で比較的気軽に撮影できる。また、シンクロトロン放射光(SR)を用いたよりハイエンドな技術の研究も進んでいる。X線CTのコントラストは、試料によるX線の減衰に頼っているので、X線に対して比較的透明な物質では、十分なコントラストが得られないという欠点がある。原子によるX線吸収係数は、その原子番号のおおよそ4乗に比例するという性質があり、すなわち、軽元素からなる高分子材料はX線CTが不得意とする対象となる。ここで取り上げる高分子ブレンドにあらわれる相分離構造については、通常のX線CTによる可視化は必ずしも容易ではない。二成分混合系の場合、片方の相を溶かして除去したり、吸収係数の大きい元素で修飾したりしてコントラスト強調を図ることはなされているが、そのままで観察できるX線CTがあれば、その適用範囲は広い。ここで紹介するX線位相CTは、X線の位相コントラストに頼ることにより、高分子のような弱吸収物体の感度を大幅に改善した技術である。X線は物質中を弾丸的に直進するというイメージでとらえられるが、厳密には高分子材料に対してもX線はわずかに屈折する。これを検出して画像化すれば、大幅な感度改善が可能となるのである。X線位相コントラスト法としては、いくつかのタイプが報告されている1)。ここでそれらを俯瞰することは避けるが、筆者が高分子ブレンドの観察に使った二つの方法による結果を紹介する。2.X線位相CT通常のX線CTでは、X線の透過率を計測し、断層像が再構成される。SRを分光して得られる単色X線を用いる場合は、断層像はそのX線エネルギーにおける線吸収係数の分布を示すものとなる。その他の装置では一般に連続スペクトルのX線を用いるので、再構成画像の意味は複雑になるが、水を0、空気を-1,000とするハンスフィールドユニットで通常表現される。さて、X線位相CTの場合、屈折によるX線の偏向角(あるいは、X線位相シフト)を計測し、断層像が再構成される。単色X線を用いる場合は、そのX線エネルギーにおける物質の屈折率分布を示す断層像が得られる。X線位相CTは図1に示すX線干渉計を用いて最初に実現した。これはシリコン結晶によるブラッグ回折を利用する二光束干渉計である。X線ビームが二本に分割され、片方のビームだけが試料を透過し、再び結合されて干渉図形が観察される仕組みである。ブラッグ回折が関与しているので、X線は単色である。他方のビームパスには位相板が挿入されており、二本のビームの相対的位相差を変えられるようになっている。この位相変化にともなう干渉像の変化を複数の画像に記録し、これをコンピューター演算にかけることより、試料による位相シフトが定量計測される。試料を回転してこれを繰り返し、X線位相CTに必要なデータが取得される。より詳細については、以前の解説2)を参照いただきたい。図2はポリスチレン(PS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)のブレンドについて、17.7 keVの単色SRX線を用いて得た位相CT像である。試料は、体積比1:1でPS(Mw=76,500、Mw/Mn=1.04)とPMMA(Mw=33,200、Mw/Mn=1.08)をベンゼンに融解したものをフーリズドライし、これを180℃で3時間アニールして直径図1シリコン結晶から削り出されたX線干渉計(a)およびそれによる二光束干渉(b)高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan675