ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集最新可視化技術で高分子を探る薄膜を散乱で見る横山英明東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻[277-8561]柏市柏の葉5-1-5基盤棟603准教授,Ph. D.専門は高分子物性,表面・界面.yokoyama@molle.k.u-tokyo.ac.jpwww.molle.k.u-tokyo.ac.jp/index.html1.はじめに窓を通して見える風景、双眼鏡で拡大された野鳥、水面に映る太陽、浅く見える水底など、われわれは経験を通して透過・屈折・反射の現象を理解している。波の性質を有するX線、電子線、中性子線などの量子線においても、光と同様に、透過・屈折・反射を理解することができる。一方、青い空、夕焼けなどの光の散乱による現象は知られるが、直感的な理解は難しい。散乱光には、粒子(散乱体)の形についての情報が含まれている。光の波としての性質から、散乱体の形と散乱された光の振幅の角度・波長依存性との間にはフーリエ変換と逆変換の関係があることが知られている。散乱体の形状がわかれば、散乱光強度はフーリエ変換により計算可能なので、多くのモデルから散乱光強度の角度・波長依存性(散乱パターン)が計算可能である。モデルと散乱パターンの間の関係を結ぶことにより、「散乱屋」と呼ばれる人たちがそうしているように、物の形状を「散乱で見る」ことが可能になる。近年、斜入射小角X線散乱(Grazing Incidence SmallAngle X-ray Scattering、GISAXS)が、薄膜構造解析手法として登場した。しかしながら、GISAXSでは、反射・透過・屈折・散乱が同時に起こる複雑な現象を扱わなければならず、古典的な小角散乱の一種でありながら、必ずしも実験結果の解釈は容易ではない。このトピックスでは、GISAXSの原理と解析の考え方について、散乱を専門としない方を対象として、数式を使わずに、平易な言葉で説明する。詳しい解説は総説や文献をご参照いただきたい1)~8)。2.斜入射小角X線散乱実験さて、「薄膜を散乱で見る」を考えてみよう。一般的な、小角X線散乱(SAXS)では、古典的な方法論により、散乱体の構造の推測が可能である。まさに「散乱で見る」ことができる。基板である固体上に支持されている薄膜をSAXSで見ることを考えよう。基板・薄膜の表面に対して垂直方向にX線を入射しSAXSを行う場合、薄膜下の厚い基板の透過性による制約に加えて、散乱図1図2斜入射小角X線散乱の原理.微小角αiにて入射されたX線が,微小角αf,θに散乱され,検出器面上の強度I(qy,qz)として検出される様子が模式的に示されている.斜入射小角X線散乱(GISAXS)の実例.走査型電子顕微鏡像で示される試料から得られたGISAXS像.q yは基板に平行な方向,q zは基板に垂直な方向の端数ベクトルを示す.強い散乱が基板垂のq z方向にあらわれている.を起こす体積(ビームの断面積×薄膜の厚さ)が非常に小さく、散乱強度が微弱であるため、適応可能な試料は非常に限られる。では、薄膜の表面と平行に近い角度で、薄膜を横から見るようにX線を入れたらどうであろうか。散乱体積は著しく増加し、基板上の薄膜からも十分な散乱が得られる。これが、GISAXSである。典型的な測定のイメージを図1に示した。また、図2に基板上に積層したナノシート(図2内の電子顕微鏡像参照)からのGISAXSの例を示した。図2のGISAXSパターンでは、基板垂直(q z)方向に複数のピークが得られており、基板垂直方向の周期性、すなわち基板上のナノシートの積層が示唆される。しかしながら、そのピーク位置は不規則で、かつ、入射高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan677