ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

COVER STORY: Topics and ProductsトピックスX線の角度αにより変わっており、従来の散乱の考え方では説明できない。GISAXSでは、基板と平行方向のq y方向には通常のSAXSと同様の解釈が可能であるが、微小角入射したX線が、試料表面や試料・基板界面でX線が透過(屈折)や反射するため、基板と垂直のq z方向の取り扱いが異なるのである。次の項では、GISAXSの散乱機構を考えてみよう。3.斜入射小角X線散乱の考え方まず、透過(屈折)と反射を考えよう。ある界面に対して入射された光は、スネルの法則とフレネルの式に従い、図3(左)のように透過(屈折)成分と反射成分に分岐する。図3(中)のような複数の界面からなる多層膜では、各界面での透過と反射の繰り返しで表現される。各界面の透過・反射の関係は漸化式の関係にあり、最も下の界面での透過・反射の関係から遡れば、すべての界面での透過・反射するX線の振幅が決まる。図3(右)のように、ある層に散乱体があり、散乱する場合を考えよう。散乱体は、上向きと下向きの二つのX線を散乱することになる。GISAXSは、二つのX線を同時に入射する小角X線散乱実験である。散乱の過程の詳細を図4に示した。すでに述べたように、下向きの透過X線(T i)と上向きの反射X線(R i)の入射があるとき、散乱体により散乱されたX線も同様に透過(T f)あるいは反射(R f)により検出器に届くことになる。これらの最小の組み合わせは、図4の4種類の過程で示される。GISAXSパターンは、これら四つの散乱過程の重ね合わせとして得られることになる。さて、以上の考え方で、図2を再度考えてみよう。図4の過程のうち、T i T f(以下TT)とR i T f(以下RT)の二つの過程の散乱が支配的で、重ねあわされていると考えよう。図2のピーク群はTT1、TT2、TT3の透過・透過による等間隔に並んだ整数次のピーク群とRT1、RT2、RT3の反射・透過による等間隔に並んだ整数次のピーク群に分けられることがわかるであろう。反射を含んだ散乱のピークであるRTは、入射角度の変化により変化することから、直接散乱成分であるTTとは明確に区別できる。このように、GISAXSの散乱パターンの理解のためには、透過(屈折)と反射の影響がどのようにあらわれているか考察することが重要である。4.おわりに薄膜を見ることのできるGISAXSは比較的新しい解析法であり、今後、さまざまな薄膜の構造解析に用いられることになるであろう。しかしながら、その解析手法は十分に開発されているとは言えず、とくに初心者のユーザーには高い障壁となっている。定量的な解析は一般的にはまだ難しいものの、ここで述べたように散乱パターンを透過と反射で区別し紐解いていくことは可能であろう。今後、解析パッケージの整備が進むことで、より一般的な薄膜の構造解析ツールとして普及が進み、新しい科学や工学に役立つことが期待される。文献図3界面での屈折と反射(左)多層膜中の透過・屈折・反射(中)と多層膜中での散乱体による散乱(右)Tは透過(下向き),Rは反射(上向き)のX線を示し,添え字iは入射,fは散乱X線を示す.図4斜入射小角X線散乱の原理1)H. Yokoyama, Polym. J., 45, 1(2013)2)H. Yokoyama, C. Dutriez, L. Li, T. Nemoto, K. Sugiyama, S. Sasaki,H. Masunaga, M. Takata, and H. Okuda, J. Chem. Phys., 127, 014904(2007)3)H. Yokoyama, L. Li, C. Dutriez, Y. Iwakura, K. Sugiyama, H.Masunaga, S. Sasaki, and H. Okuda, Macromolecules, 41, 8626(2008)4)A. Gibaud, S. Dourdain and G. Vignaud, Appl. Surf. Sci., 253, 3(2006)5)B. D. Lee, Y. H. Park, Y. T. Hwang, W. Oh, J. Yoon, and M. Ree, Nat.Mater., 4, 147(2005)6)K. Heo, K. S. Oh, J. Yoon, K. S. Jin, S. Jin, C. K. Choi, and M. Ree,Appl. Crystallogr., 40, s614(2007)7)S. K. Sinha, E. B. Sirota, S. Garoff, and H. B. Stanley, Phys. Rev. B, 38,2297(1988)8)M. Rauscher, T. Salditt, and H. Spohn, Phys. Rev. B, 52, 16855(1995)678 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)