ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

トピックスCOVER STORY: Topics and Products特集最新可視化技術で高分子を探る国内初、「共用」ヘリウムイオン顕微鏡とは大西桂子(独)物質・材料研究機構先端的共通技術部門極限計測ユニット[305-0047]つくば市千現1-2-1研究員.専門は表面物理,表面計測.ONISHI.Keiko@nims.go.jpwww.nims.go.jp/group/g_surface-characterization/1.はじめに高分子材料に限らず、材料研究を行ううえで、微細構造を可視化することは非常に重要である。これまで、表面微細形状を観察する方法としては、おもに走査型電子顕微鏡(SEM)が用いられてきた。また、近年では、原子間力顕微鏡(AFM)による観察も盛んである。しかしながら、SEMによる観察では、分解能がナノスケールの形状観察には不十分、絶縁体を観察するためにはチャージアップを防ぐためにコーティングが必要など、限界がある。また、AFMによる観察では、凹凸が激しすぎる試料は観察が難しく、表面の微細構造が探針先端の大きさと同程度かそれ以下の場合には測定像に探針先端の形状があらわれてしまうという効果があり、正確な形状が測定できない、などの問題がある。透過型電子顕微鏡(TEM)による観察では、分解能は十分であるが、電子線が透過するのに十分な薄さに加工する必要があり、表面形状をそのまま観察することはできない。このような問題を解決する画期的な顕微鏡が、近年開発され、市販されている。ここでは、この新しい顕微鏡であるヘリウムイオン顕微鏡1)~3)とはどのようなものかを紹介し、観察例を示す。また、共用装置となっていることを紹介し、皆様の利用を促したい。2.ヘリウムイオン顕微鏡とは走査型ヘリウムイオン顕微鏡(Scanning Helium IonMicroscope、SHIM)の概略を図1に示す。SHIMは、SEMによく似た装置であるが、電子線のかわりにHe +ビームを試料表面上で走査する。二次電子(SE)とラザフォード後方散乱イオン(RBI)の検出器をもっており、同時にイメージングすることができる。高電圧印加かつ低温保持された金属尖端に形成された3個の原子団(Trimer)の一原子からイオン化放出されるHe +ビームをイオン光学系で収束・走査する。He +ビームは電子線に比較して小さなドブロイ波長をもつことから回折収差が小さくなること、光源がほぼ単一原子であるため輝度が高くエネルギー分散が低いこと、および、図1ヘリウムイオン顕微鏡の概略二次電子放出率が高く、後方散乱イオンによる二次電子放出率が比較的低いことから、二次電子(SE)イメージングによりサブナノスケールの空間分解能(0.35 nm)が得られる。イオン源の大きさが小さいことから収束したビームの角度が小さく平行に近いので、SEMと比較して焦点深度は深い。二次電子放出率が高いことから、0.1~数pA程度の低い電流値で観察することができるので、チャージアップや試料へのダメージも少ない。絶縁体の場合は正のチャージアップが起きるが、中和用電子銃(Flood gun)をもつので、観察用ヘリウムイオンビームと適切な量の電子線を交互に照射することによりチャージアップを低減し、コーティングなどをせずに直接試料表面を観察することができる。ラザフォード後方散乱イオン(RBI)像は、分解能はSE像には劣るが、原子番号に依存した物質コントラストをもつ像が得られる。また、今回はとくに示さないが、ガリウムイオンを用いる収束イオンビーム(FIB)装置のように、微細加工に用いることもできる。ガリウムイオンビームを用いた場合のように大きな加工はできないが、高分解能を活かしたナノスケール極微細加工が可能である。高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan681