ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
グローイングポリマーPolymer Science and I: A Personal Account試行錯誤とともに松尾彰JX日鉱日石エネルギー(株)研究開発本部中央技術研究所化学研究所情報化学材料グループアシスタントマネージャー,博士(工学).akira.matsuo@noe.jx.group.co.jp大学院の研究室名/研究テーマ東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻平尾研究室/リビングアニオン重合による多分岐ポリマーの精密合成現在の専門は高分子合成,高分子化学.筆者が化学好き、実験好きになったのは高校の化学科教諭、妻木貴雄先生のお陰である。妻木先生は他校の先生方と共同で、授業のための新しい実験を考案する活動をされていた。筆者は放課後の化学実験室に入り浸り、さまざまなアイデア実験を体験した。このとき、実際に手を動かす楽しさを学んだように思う。高分子との出会いもこのときであった。界面重縮合での6,6-ナイロン合成やカプロラクタムの開環重合など、分子が次々に繋がっていくのが目に見えるようで感動したのを覚えている。大学は高分子工学科のある東京工業大学に進学し、学部4年時の研究室所属では、合成系である平尾明先生の研究室を選択した。平尾研の専門であるリビングアニオン重合は、精密重合の代名詞とも言える手法だが、それは水や酸素などの失活要因を徹底的に排除したうえでの話である。設計どおりのポリマーを得るためには反応試剤に高い純度が求められる。この高純度達成のため、平尾先生や研究室の諸先輩の指導によって鍛えられた有機合成実験のスキルは、今も筆者を助けてくれる宝である。実験に明け暮れた研究室生活であったが、テーマは一筋縄ではいかなかった。学部、修士を通じてのテーマは末端官能基化ポリマーの精密合成と、その末端官能基を利用した星型ポリマー合成であった。当時、ポリメタクリレートセグメントを有する構造の明確な星形ポリマーの合成報告はほとんどなく、筆者のテーマはそれが目標だった。「世界初!」と意気込んでいたが、修士2年の初め頃、海外の研究グループに先を越されてしまった。研究競争とはよく聞くが、まさか自分の身に起こるとは思ってもいなかった。相当に落ち込んだが、平尾先生の「末端官能基化の出口は星型だけではない。あきらめるな」という言葉に励まされ、なんとか修士課程を乗り切ることができた。この悔しさをバネに進んだ博士課程では、相変わらずポリメタクリレートセグメントの導入にこだわりつつ、星型以外の何かを求めて探索を続けた。その多くは失敗か、発展性に乏しく没となる厳しい状況だったが、末端官能基化PMMAの合成に成功し大きく転換した。この合成に用いた末端官能基化手法は平尾研で開発され、ポリスチレンなどの炭化水素系ポリマーでは確立した方法であったが、ポリメタクリレートではエステル部位の分解が危惧され、誰も試していなかった。そうと知りつつ“ダメ元”で反応を仕込んだ。半ば諦めつつ見た反応後のGPCカーブに分解を示す変化がなく、NMR測定で目的の官能基導入が確認できたときは非常に興奮した。このポリマーはその後、デンドリマーを巨大化したような“樹木状多分岐”という構造に発展し、無事学位を取得することができた。学位取得後は新日本石油化学(現JX日鉱日石エネルギー)に入社した。「なぜ石油に?」と言われたが、エチレンからBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)以下を手掛ける化学メーカーであると同時に、ポリイソブチレン、液晶ポリマーなどを手掛けるポリマーメーカーでもある。せっかくなら最上流から化学に触れてみたいと思った。その思いが届き過ぎてしまったのか、入社後数年は既存低分子製品の生産性向上に取り組むこととなった。学生時代と大きく異なり、常に経済性と実機への適用性(スケールアップ)を前提とした課題解決が求められた。生産量数万トン/年というプロセスが相手のため十分な実証も必要であり、良い結果が出た後の深掘りが重要であった。チームで協力して実験装置を立ち上げ、検証実験を繰り返した。製造現場との協議を重ねる中で、ベテラン社員の方に「やっと見られるデータになってきた」、「これなら実機でやってみよう」と言っていただけたときの嬉しさは今でも忘れない。その後、テーマは新規製品の開発に変わり、高分子の世界に戻ってきた。慣れ親しんだつもりでいたが、製品として考えると、顧客ニーズ、性能とコストのバランス、製造・加工方法など考慮すべき課題は山積みである。一方、それだけアイデアを試す機会が多いとも言える。今後も試行錯誤を繰り返すことになると思うが、1日も早く広く世の中で使われる製品を作り出したい。高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan683