ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
高分子科学最近の進歩Front-Line Polymer Scienceボトムアップ表面重合の展望坂口浩司京都大学エネルギー理工学研究所[611-0011]宇治市五ケ庄教授,工学博士.専門はナノ材料科学.sakaguci.hirohi.7z@kyoto-u.ac.jpwww.iae.kyoto-u.ac.jp/molecule/index.html1.ボトムアップ表面重合とは?ラジカル重合、重縮合など、これまで高分子の合成は溶液中で行われる反応がほとんどを占める。その中で金属触媒を用いて行われる重合反応も数多い。銅触媒上で行われるUllmannカップリングはその一例である1)。これゆえ、金属表面は有機分子との強い電子的相互作用(d-p電子相互作用、配位相互作用、CT相互作用)により、触媒作用のみならず、有機分子を配列させる鋳型としての利用が示唆される。ボトムアップ表面重合とは、その名のとおり、ビルディングブロックとなる原料分子モノマーを金属基板表面上で重合反応を起こさせ、機能性高分子を合成する“表面支援重合法”である(図1)。有機分子と金属表面との強い相互作用により、金属原子配列に沿った表面組織化や重合反応が可能になることが大きな特色、利点となっている。また、走査トンネル顕微鏡等の表面分析法が利用できるため、原子・分子レベルでの反応・機構の直接観察が可能となる。これまで、さまざまな分子を用いた表面組織化、表面反応、新物質創成等が報告されている。本稿では、表面ボトムアップ重合に関するこれまでの動向について、筆者らの仕事を含めて概観し、今後の展望について述べる。原料分子金属単結晶表面一軸成長した導電性高分子図1ボトムアップ表面重合の概念図2.一次元、二次元共役高分子の表面合成これまで表面ボトムアップ重合法を用いて、さまざまな高分子の合成が報告されている。おもに導電性高分子を表面上で合成する報告が数多くなされている。その動機は、表面科学的興味のみならず、高性能デバイス実現に向けての分子レベルでの配列技術の開発が求められているからである。導電性高分子の金属上における一次元成長に関する研究は、以下の例が報告されている。たとえば、グラファイト表面上にジアセチレン化合物の周期配列構造を形成させ、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針から放出する非弾性トンネル電子の注入によりポリジアセチレンの一分子レベルでの一次元合成が報告された2)。ほかにも、超高真空(UHV)環境で、Cu(110)面上にp-ジヨードベンゼン分子を蒸着させて自己組織化させた後、加熱することによりUlmannカップリングさせ、銅原子に沿って一軸上に重合させてポリフェニレン(PPP)を合成した研究例がある3)。二つのヨウ素基の位置が異なるモノマーを用いることにより、直鎖状に重合したPPPや環状に重合したシクロヘキサメタフェニレンを作り分けることができる。また、3,4-エチレンジオキチオフェンのジヨード体やジブロモ体を同様な手法で、Cu(110)表面に組織化させ、UHV環境下で200℃に加熱することにより一軸成長した共役系高分子PEPDOTを形成させた例が報告されている4)。さらに、7,7’-ジブロモターフルオレンをUHV下でAu(111)に蒸着重合させ、長さ100nm弱のポリフルオレンを形成させた例も報告されている。この報告では、STM探針を用いたブレークジャンクション法を利用して高分子1本鎖のトンネル電導効率を求め0.3 A?-1と高い値を示すことを明らかにした5)。これまで一次元系高分子の表面合成の動向に関して述べてきたが、最近は二次元系高分子の表面合成に関しても興味がもたれている(図2)6)。これは、ゼロギャップ半導体、すなわち擬似金属の性質をもつ二次元系の炭素材料、グラフェンが従来材料の物性値を塗り替える高いポテンシャルをもつ材料であることが示されたことが大きい7)。表面重合によって従来にない二次元系物質を作製しようとする研究が行われている。たと高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan685