ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
- ページ
- 37/80
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている37ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている37ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
高分子 POLYMERS 62巻11月号
高分子科学最近の進歩Front-Line Polymer Science基板のサイクリックボルタムグラム(電気化学的電流-電圧)測定からポリチオフェンの酸化電位に相当するピークが観測され、表面にポリチオフェンワイヤーが形成されていることが確認された。電圧パルスを印加した溶液の吸収スペクトルの測定から、生成したオリゴマーが基板表面に吸着し、これを起点(核:オリゴマーのカチオンラジカル)として溶液中のモノマーカチオンラジカルとの重合反応が逐次的に起こり、単一分子ワイヤーがエピタキシャル的に(表面ヨウ素原子配列に沿って)成長したものと結論された。表面上の分子ワイヤーの配列を詳しく見ると、単一ポリチオフェン細線列が基板一面上に3回対称性をもって成長している(図3)。下地の金(111)面の高解像STM像を観察すると、表面を覆った化学結合したヨウ素原子のモアレパターンが観測された。金(111)表面に結合したヨウ素原子の三回対称性を反映してポリチオフェンワイヤーは、規制された3軸方向に沿って成長したものと考えられる。すなわちヨウ素原子が分子ワイヤーを1分子レベルで整列させる“接着剤”の役割を果たしていることがわかる。高分解能STM測定からポリチオフェンは、チオフェン環とヨウ素原子が1対1で重なるように配列していることがわかった(図3)。ヨウ素原子とチオフェン間の相互作用は、電荷移動相互作用、あるいは弱い静電的相互作用であると考えられる。さらに、モノマーの種類を変えると、その化学構造に応じて多彩な細線構造(直線型、ねじれ型、会合型)を取り、分子ワイヤーの形を制御できることもわかった。また、表面に重合開始点となる核を埋め込む方法により分子ワイヤーを一軸成長させることもできる。たとえばチオフェン3量体であるターチオフェン分子(3T)を含む電解質溶液にヨウ素で表面修飾した金(111)基板を浸し3Tの酸化電位に相当する電圧パルスを印加し、3Tのオリゴマー(6量体、あるいは9量体と推測される)を生成させる。このオリゴマーは溶液中に不溶と推測され、核として基板表面に吸着する。こうして表面核を人為的に埋め込むことができる。次にモノマーのみを含む電解質溶液中に核埋込基板を浸し、モノマー酸化電位に相当する電圧パルスを印加した。驚くべきことに1軸方向に規則正しく成長した長いワイヤーが生成することがわかった(図3)。ヨウ素・モノマー混合系で分子ワイヤーが三軸方向に成長するのと対照的に、表面核埋込法で生成する分子ワイヤーは、1軸方向に成長するため成長ワイヤー間での衝突が少ない。このため極端に長い分子ワイヤー成長が可能になったものと考えられる。最長で200 nmの長さをもつ分子ワイヤーの構築に成功している。この基板表面の高解像STM像を観測すると金(111)に結合したヨウ素原子配列が3軸対称から1軸対称に変化していることがわかった(図3)。分子ワイヤーもこれにともない、チオフェン環間隔3.8A?と一致するヨウ素原子配列軸(1軸)に沿って成長したものと考えられる。すなわちこの現象は、結合ヨウ素の原子配列変化により分子ワイヤーの配向制御が可能であることを示している。その後、電気化学系での分子レベル重合の報告がなされた。アニリンを溶解した電解質中でAu(111)上に組織化したモノマーから電圧印可によりポリアニリン鎖が一軸成長する様子がIn situ STMの測定から明らかにされた14)。液相法の優れた特色は、異なる溶液に適用すれば、異種類の分子ワイヤーを形成させる可能性をもつことである。筆者らは、二つの異なるチオフェンモノマー溶液を用いて電子状態・構造の異なる2種類のポリチオフェンを1分子レベルで電気化学的に接合させることに初めて成功した15)。この目的のために連続浸漬型電気化学エピタキシャル重合を開発した。この方法は、次の2段階の電気化学エピタキシャル重合からなる。(1)チオフェンA(3-メチル-4-オクチルチオフェン)を含む電解質溶液にヨウ素修飾・金(111)マイカ基板を浸し、モノマーの酸化電位に相当する電位の電圧パルスを印加する。このプロセスにより、基板表面上にチオフェンAからなる分子ワイヤーが成長する。(2)この基板を溶液中から取り出し洗浄後、チオフェンB(3-メチル-4-オクチロキシチオフェン)を含む電解質溶液に浸し、酸化電位に相当する電圧パルスを印加した。この基板を液中から取り出し洗浄後、室温大気中でSTM観察を行った。チオフェンBのみを含む電解質溶液中で電気化学エピタキシャル重合により生成した単一ポリチオフェンワイヤー列は、ヨウ素原子配列の1軸に沿って成長した、高さ3.5A?の連続的な線として画像化された。これに対し、チオフェンAを含む電解質溶液から成長したポリチオフェンワイヤーは同じく1軸成長したが、驚くべきことに11.4A?の周期をもつ連結した点構造としてあらわれた。この周期はポリチオフェンのモノマー間隔の3.8A?の4倍に相当することから3ユニットごとにチオフェン環がねじれた構造を示しているものと結論された。従来、ポリチオフェンのねじれ構造は、溶液の著しい短波長光吸収結果から示唆されてきたが、これまで構造を直接観察された例はなかった。図4BAS3 nmAC 8 H C 17 8 H 17C 8 H C 17 8 H 17SSSC 8 H 17 C 8 H 17SOBAOS4 nmBOSC 8 H 17 C 8 H 17異なる電子構造をもつポリチオフェンの連結細線のSTM像OSABB高分子62巻11月号(2013年)c2013 The Society of Polymer Science, Japan687