ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
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高分子 POLYMERS 62巻11月号
Front-Line Polymer Science高分子科学最近の進歩また、連続浸漬型電気化学エピタキシャル重合を施した基板上で、2種類の異なるポリチオフェンが連結したヘテロ構造が観測された。ヘテロ接合部分は破断しないことから、化学結合により2種類の異なる分子ワイヤーが連結していることが確認された(図4)。また異なる条件設定により、2ブロック、3ブロック、マルチブロック結合した異種分子ワイヤーを1分子レベルで形成させ、その電子状態を計測することに成功した。4.将来展望:表面科学から材料科学へこれまで概観したように、ボトムアップ表面重合法は、金属表面での有機分子の組織化とそれに続く化学反応をベースにした重合法であり、走査プローブ顕微鏡による原子・分子レベルでの生成物や中間体の可視化、および金属表面の原子配列に沿った成長方向を制御した高配列の高分子が得られるなどのいくつかの優れた利点がある。しかしながらこれらの従来研究は、高分子合成というよりは、むしろ表面科学的な研究である。高分子合成の観点から眺めると、収率が低いし、超高真空環境を必要とするため大量合成にも不向きである。今後は、金属表面上に大量に合成する新しい手法の開発や金属上に合成した新物質・材料をマクロ物質として取り出す単離手法の発展が望まれるであろう。すなわち、表面上で分子を組み立て巨視的材料に階層制御して取り出す、“ナノからマクロへ”への新たなパラダイムの構築が必要と考えられる。言わば、表面科学から材料科学への転換である。この観点から、最近筆者らはグラフェンを有限幅に切り取った構造をもつグラフェンンナノリボン(GNR)のボトムアップ大量合成と単離に成功した(図5)。グラフェンが二次元のシート構造をもつ、ゼロギャップ半導体(疑似金属)であるのに対し、GNRは一次元ナノ炭素であり、その分子幅やエッジ構造に大きく依存した半導体的性質をもつと理論的に予測されている。言わば、炭化水素からなる縮環系導電性高分子(ラダーポリマー)であり、高分子分野ではその合成が古くから望まれていたが、高温条件が必要なことや生成高分子が不溶不融のため溶液合成では困難であった。近年、物理的手法を用いる合成法が進歩し、カーボンナノチューブの電子ビーム切開16)やUHV系でのボトムアップ蒸着重合17)によるGNR形成が報告されている。しかしながら微細加工や超高真空系が必要であり、金属表面上での微量合成しか達成されていなかった。筆者らは、新しい化学気相成長法を開発し、従来極度に低収率で超高真空環境(10-10 torr)を必要としたGNR形成反応を低圧環境(1 torr)でのボトムアップ大量合成に成功した。さらにAu(111)基板上に成長したGNRを単離す図5新しい化学気相成長法により大量合成したグラフェンナノリボン.(青)ポリペリナフタレン,(赤)ポリペリアントラセン.る技術を開発し、得られた“GNR薄膜”から、理論的に予測された分子幅やエッジ構造に依存した電子状態の実験的特定に成功した。またボトムアップ合成GNR薄膜のデバイス試作にも成功し高性能なキャリア移動特性を実現した。今後、“表面から材料へ”の転換を目指した研究が進展するものと期待される。文1)J. Hassan, M. Sevignon, C. Gozzi, E. Schulz, and M. Lemaire, Chem.Rev., 102, 1359(2002)2)Y. Okawa and M. Aono, Nature, 409, 683(2001)3)J. A. Lipton-Duffin, O. Ivasenko, D. F. Perepichka, and F. Rosei, Small,5, 592(2009)4)J. A. Lipton-Duffin, J. A. Miwa, M. Kondratenko, F. Cicoira, B. G.Sumpter, V. Meunier, D. F. Perepichka, and F. Rosei, Proc. Natl. Acad.Sci. U.S.A., 107, 11200(2010)5)L. Lafferentz, F. Ample, H. Yu, S. Hecht, C. Joachim, and L. Grill,Science, 323, 1193(2009)6)D. F. Perepichka and F. Rosei, Science, 323, 216(2009)7)A. K. Geim and K. S. Novoselov, Nat. mater., 6, 183(2007)8)S. Weigelt, C. Busse, C. Bombis, M. M. Knudsen, K. V. Gothelf, E.Laegsgaard, F. Besenbacher, and T. R. Linderoth, Angew. Chem., Int.Ed. Engl., 47, 4406(2008)9)N. A. A. Zwaneveld, R. Pawlak, M. Abel, D. Catalin, D. Gigmes, D.Bertin, and L. Porte, J. Am. Chem. Soc., 130, 6678(2008)10)T. Lin, X. S. Shang, J. Adisoejoso, P. N. Liu, and N. Lin, J. Am. Chem.Soc., 135, 3576(2013)11)M. Bieri, M. Treier, J. Cai, K. Ait-Mansour, P. Ruffieux, O. Groning,P. Groning, M. Kastler, R. Rieger, X. Feng, K. Mullen, and R. Fasel,Chem. Commun., 6919(2009)12)L. Grill, M. Dyer, L. Lafferentz, M. Persson, M. V. Peters, and S. Hecht,Nat. Nanotechnol., 2, 687(2007)13)H. Sakaguchi, H. Matsumura, and H. Gong, Nat. Mater., 3, 551(2004)14)L. Y. O. Yang, C. Chang, S. Liu, C. Wu, and S. L. Yau, J. Am. Chem.Soc., 129, 8076(2007)15)H. Sakaguchi, H. Matsumura, H. Gong, and A. M. Abouelwafa, Science,310, 1002(2005)16)L. Jiao, L. Zhang, X. Wang, G. Diankov, and H. Dai, Nature, 458, 877(2009)17)J. Cai, P. Ruffieux, R. Jaafar, M. Bieri, T. Braun, S. Blankenburg, M.Muoth, A. P. Seitsonen, M. Saleh, X. Feng, K. Mullen, and R. Fasel,Nature, 466, 470(2010)献688 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)