ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号

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概要

高分子 POLYMERS 62巻11月号

PolySCHOLA測る3限目タイヤのガラス転移温度(Tg)を測る1.ガラス転移温度とは?プラスチックやゴムが高分子であることはご存知だと思います。でも、「一方は固いのに、一方は柔らかい、どうしてこんなに違うの?」と疑問をもった人もおられると思います。実際に簡単な観察をしてみましょう。食品包装用のラップあるいはチャック付きポリ袋が身近にあると思います。そこには耐冷温度-60℃とか-30℃とか書いてあるはずです。これを切って、冷凍庫に入れて、しばらくしてから取り出してみると、少し硬くなっているはずです。ただし、薄いので、指で触っている間に室温に戻り、元の柔らかいフィルムになります。このように、柔らかい高分子物質も温度を下げると硬くなります。もし、研究室にドライアイスとアセトンあるいはメタノールがあれば、それらを混ぜると、-78℃の冷媒ができます。そこに先ほどのラップかポリ袋を入れてみて下さい。冷凍庫に入れた時よりももっと硬くなるはずです。硬いというよりはカチカチというほうが適切かもしれません。次に、輪ゴム(細い輪ゴムよりは幅広のゴムバンドのほうがよい)を上記の冷媒に入れてみましょう。カチカチになって、ゴムらしさがなくなるのがわかるはずです。このカチカチの状態をガラス状態と言います。逆に、通常のラップやポリ袋、あるいは輪ゴムのような状態をゴム状態と言います。熱硬化性樹脂でない限り、どんな無定形高分子でも、高温での溶融状態から温度を下げていくとゴム状態になり、さらに温度を下げればガラス状態になります。ゴムを架橋しても、溶融こそしませんが、やはりゴム状態からガラス状態に変化します。逆に温度を上げていくと、ガラス状態からゴム状態へと変化します。このゴム状態からガラス状態に変化することをガラス転移と言います。また、ガラス転移が起きる温度をガラス転移温度(T g)と言います。普通のプラスチックは室温で硬く、ゴムは室温で柔らかいので、まったく違うように見えますが、実は見かけの話であって、高分子材料の硬さが温度に依存することに由来する現象なのです。たまたまプラスチックのT gは室温以上にあり、ゴムのT gは室温以下にあるだけの違いです。2.タイヤとガラス転移温度そろそろ本題のタイヤとガラス転移温度の話に移りましょう。自動車のタイヤは、ご存知のように、ゴムでできています。タイヤに要求される主要性能は制動性、耐摩耗性、省燃費性の三つです1)。乗用車のタイヤに用いられ、これら三つの性能間のバランスが最も優れている原料ゴムはスチレン・ブタジエン・ランダム共重合体(SBR)です。「原料ゴム」と呼ぶのは、タイヤ用ゴムを構成するためにさまざまな副資材を混ぜる必要があるからです。一般に、タイヤ用ゴムとするためには、分子間架橋とフィラー(充填剤)配合が欠かせません。駐車中や走行中にタイヤが変形してしまうと困ります。これを防ぐために分子間架橋を導入して三次元網目を形成し、弾性性能を上げ、変形を防いでいます。フィラーを加えるのはゴムを丈夫にし、かつ摩耗しにくくするためです1),2)。フィラーにはカーボンブラックあるいはシリカが用いられ、シリカの場合にはポリマーとシリカを結び付けるカップリング剤が欠かせません。ここまでタイヤを構成するためのゴムの必要条件を挙げてきましたが、実は、タイヤにとって最も重要なのは“通常の気温で柔らかい”ことです。もし、ちょっと気温が下がるだけでカチカチのガラス状態になるとしたら、タイヤの役目は果たせません。ですから、タイヤ用原料ゴムのガラス転移温度(T g)はかなり低温域にある必要があります。また、制動性能の良否もT gに依存します1)。T g測定がタイヤ製造に重要な理由はここにあります。690 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)