ブックタイトル高分子 POLYMERS 62巻11月号
- ページ
- 42/80
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている42ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 高分子 POLYMERS 62巻11月号 の電子ブックに掲載されている42ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
高分子 POLYMERS 62巻11月号
PolySCHOLA測る3限目りにくいですね。このようなとき、図2の曲線を積分すると、図3のような曲線が得られ、比容の場合と同様に、低温側と高温側の直線の交点からT gを決定できます。未充填未架橋SBRのT gは-56℃で、架橋させるとT gが-51℃に上昇することがわかります。これは分子間に架橋を導入すると分子運動が抑制されるので、分子運動させるためには、余分に温度を上げてやらねばならないからです。問題は充填剤を加えたときにT gがどのように変化するかです。図3より、カーボンブラックを加えてもT gは-51℃で、未充填架橋SBRのT gから変化しないことがわかります。ここで用いているカーボンブラックの一次粒径は30 nm程度ですが、通常は100 nmサイズの凝集体を形成しており、充填剤サイズに比べてセグメント運動に対応する空間サイズのほうがはるかに小さいことに由来すると思われます12), 13)。4.ガラス転移温度の測り方(その2):動的方法比容測定あるいは熱測定などの静的な方法によりT gを測ることができます。しかし、タイヤは走行中にさまざまな振動を受けます。したがって、実際には、振動変形中のT gを知る必要があります。この目的に適合する測定法が動的粘弾性法です。動的粘弾性の詳細は文献14)を参照して頂くとして、概略を説明しましょう。物質を変形させるとき、与えられたエネルギーは物質中に蓄えられるか、系外に散逸するかのいずれかです。与えられたエネルギーが蓄えられる物質が弾性体、散逸してしまう物質が粘性体です。弾性体なら力は変位に比例しますが、粘性体ならば力は変位速度(変位の時間微分)に比例します15)。ですから、粘性(エネルギー散逸)に対応するのが損失弾性率G″です。エネルギーが散逸するということは、系外から見ればエネルギー損失に対応します。T g以下のガラス状態では局所的な運動しか許されないので、エネルギー損失は非常に小さいのですが、温度が高くなってガラス・ゴム転移付近で急に分子運動が活発になりエネルギー損失も大きくなります。さらに温度が高くなればエントロピー弾性が目立ってくるので、エネルギー損失は再び小さくなります。したがって、T gに対応するところで損失弾性率G″はピークを示します。図3と同じ試料に対して、振動数1 Hzで測定したG′、G″の温度依存性を図4に示します。図4でG″がピークを示す温度が粘弾性から見た1 HzでのT gに対応します。未充填未架橋SBRでは-53℃ですが、架橋試料ではカーボンブラックフィラーの有無にかかわらず-48℃となります。粘弾性で測ったT gはDSCで測ったT gより少し高いですが、ほぼ同じような値を示すことがわかります。1 Hzで測定する代わりに10 Hzで測定すればG″ピーク温度は10℃くらい高くなります。このように振動数が高くなればT gは上昇します。自動車タイヤの回転数は20~30 Hz程度(1秒間に20~30回転する程度)ですから、T gは通常の気温以下になり、安心して使えます。また、タイヤの温度は走行中に上がりますから、なおさら安心です。x(t)=x 0 sin wtという正弦振動の変位x(t)を与えると、力f(t)も振動します。弾性体ならば、f(t)=0 sin f wtという応答を示し、粘性体ならば、f(t)=0 cos f wtという応答を示します。つまり、弾性体ならば力と変位は同位相(力のピークと変位のピークが遅れなく対応)ですが、粘性体ならば、p/2ラジアン(90°)の位相差が生じます。弾性と粘性の両方の性質をもつときには、0°以上、90°以下の位相差を生じます。ですから、位相差の大小によって弾性の程度と粘性の程度がわかります。これを定量的に評価できるようにしたのが動的弾性率です。振動歪を与えるときに得られる動的弾性率のうち、弾性(エネルギー貯蔵)に対応するのが貯蔵弾性率G′、図4周波数1 Hzにおける動的弾性率および損失正接の温度依存性の試料間比較.試料は図3と同じ.692 c2013 The Society of Polymer Science, Japan高分子62巻11月号(2013年)