この理論が発表される1920年以前の破壊の条件(基準)は,物体内に発生した最大主応力(あるいは最大せん断応力)が,材料に固有な破壊応力を越えたときに起きるものとしていた。この説に従えば応力分布の相似性から,物体寸法が変化しても破壊応力は変わらないはずであるが,現実には当てはまらないことが多かった。当時は破壊基準応力の取り方に問題があるとしてさまざまな破壊条件式が提案されていたが,Griffithは,これらとまったく違う考え方により破壊条件式を導いた。すなわち,微小クラックが材料内部に潜在することを仮定し,この材料を変形させたとき,蓄えられた弾性ひずみエネルギーの減少が,新しく表面を形成するのに必要なエネルギーより過剰になると,クラックが不安定に成長して破壊を生ずるとしたものである。これにより,破壊応力は初めて材料物性値である弾性率と表面ネルギーおよび潜在クラック長さにより定式化された。完全弾性体モデルとしてガラスによる実験から理論の正しさは証明され,その後Orowanらにより実際の材料に近い弾塑性体について拡張された。現在,この理論の基本はタフネス評価の技法として確立している破壊力学にも引き継がれている。
Kobunshi, Vol.42 , p.416 (1993)
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