体の様々な組織の細胞に分化できる能力を持つ細胞(いわゆる万能細胞)は,移植によって損傷や欠損した組織を再生させる治療への応用が考えられている。万能細胞としてはES細胞が知られているが,倫理面や免疫適合性などに課題があった。一昨年京都大学山中らは,4種類の遺伝子を導入することで,成体(成人)の細胞から,ES細胞に匹敵する細胞を作製することが可能であることを示し,iPS細胞と名付けた。これは,胚の細胞から作製されるES細胞とは違い,たとえば皮膚の細胞など採取しやすい患者自身の細胞から作製することが可能で,治療応用に期待が高まっている。作製の確率が低いこと,導入する遺伝子,あるいは導入に用いるウイルスによる副作用の可能性などが現状の課題であるとされているが,ある種の低分子化合物を添加することで導入する遺伝子の種類を減らすことが可能という報告もある。今後,再生医療への実用化のためには,iPS細胞から目的の細胞へ確実かつ効率的に分化させる培養手法の確立が望まれる。
Kobunshi, Vol.58, P.129 (2009)
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