ポリワーズ な行 

ポリワーズ

〔な行〕

ニューラルネットモデル<p799>
ニューラルネットワークとは,神経回路網(多数の神経細胞:ニューロンの結合)の工学的モデルを利用して,人間などの脳で行われているのと同等の学習,並列処理,分散処理を行う情報処理システムである。従来のコンピュータによる情報処理は論理的思考に例えられる記号を用いた逐次直列方式の処理で,コンピュータ技術の発展と共に大いに利用されてきた。これに対し,ニューラルネットワークは直感的思考ともいうべき情報処理を行うことを目指しており,従来の逐次直列方式の情報処理では解決困難であった問題を解くことができると期待されている。  ニューラルネットはニューロンの結合方式による階層型ネットワーク(層状に結合されたニューロンで情報が一方向のみに伝達)と,相互結合型ネッットワーク(ニューロンが相互に結合)に分類される。p型ネットワークは,最近はバックプロパゲーション(誤差逆伝播)法による学習を利用して,予測,i形モデル化,パターン認識などへの応用がさかんである。相互結合型ネットワークは組み合わせ最適問題などへの実用化が進められている。 Kobunshi, Vol.43, p.804 (1994)

熱ヒステレシス (Thermal Hysteresis)
氷が0℃以下で凍るにはいくつかの過程を経て生じている。まず,氷形成のための核が存在するか(不均一核形成),あるいか核を形成するか(均一核形成)である。この微小な核が,形成する際に起きる過冷却状態を,過冷却点と呼び,氷核形成温度と呼ばれている。この微小な核が発生し,氷形成が開始するときに,ある化合物(たとえば不凍タンパク質)が,氷結晶格子内に結合したまま微小な氷が形成した場合,微小な氷結晶の成長が抑制される。生じた氷結晶の成長による凍結開始点が,この抑制によって低下する。この場合,氷の融解点は0℃であるが,微小な氷結晶のままであると水溶液全体が凍らなくなるので,見かけ状,凍結温度が低下する。この凍結温度の低下を熱ヒステレシスと呼んでいる。この熱ヒステレシスをできるだけ大きくした場合,凝固点降下とは異なった現象によって,水を不凍で保つことができる。これまでに,ミルワーム由来の不凍タンパク質を遺伝子組み換え操作によって改変した変異型不凍タンパク質が最も高く,8~9℃である。 Kobunshi, Vol.58, p.529 (2009)

熱活性化遅延蛍光 <p797>
有機化合物の励起状態は,一重項励起状態と三重項励起状態に分類でき,一重項励起状態からの発光を蛍光(Fluorescence),三重項励起状態からの発光をリン光(Phosphorescence)と分類される。三重項励起状態は一重項励起状態に比べ励起子のもつエネルギーが低く,そのため,一重項励起子は系間交差を経由して三重項励起状態へ遷移し,その結果,リン光発光が観測される。通常,二つの状態間には,0.4 eV以上のエネルギー差が存在するために,エネルギーの遷移は一方的であるが,二つの状態間のエネルギー差が小さい場合,熱エネルギーによって三重項励起状態から一重項励起状態への逆エネルギー移動が生じる。この現象を熱活性化遅延蛍光(Thermally activated delayed fluorescence:TADF)と呼び,通常,リン光寿命に対応する遅延発光を示す。分子設計によっては,エネルギー差を小さくすることが十分可能であり,高効率な逆エネルギー移動が実現できれば,有機ELなどの新しい発光機構としての利用が可能である。 Kobunshi, Vol.58, p.809 (2009)

二次非線形光学効果 <p313>
光源からの光電場が媒質を構成する原子の内部電場に比べて十分に低い場合には,媒質に誘起される分極は光電場に比例される。一方,光電場の大きさが原子の内部電場に近くなると,媒質の分極は光電場に比例しなくなる。このような場合には,分極は光電場により線形感受率と非線形感受率を比例定数として記述することができる。このような非線形応答は多くの興味ある非線形光学現象を生み出す。とくに二次の非線形分極は第2光調波発生や和・差周波発生,あるいはパラメトリック増幅・発振などの成因となり,現在のレーザー光学でも多くの現象が応用されている。ただし,バルク材料における二次非線形感受率は中心対称をもたない場合にのみ零でない値をもつので,液体,ガス,ガラスなどのアモルファス材料などでの二次非線形感受率は零となり非線形光学効果は生じない。電界印加によって屈折率変化を起こす電気光学効果(ポッケルス効果)も二次非線形光学結晶を用いた現象である。とくに通信などの光伝送波を電気的手段によって位相変調や強度変調を起こす光変調器は広く実用化されている。 Kobunshi, Vol.59, p.329 (2010)