ポリワーズ T 

ポリワーズ

〔T〕


Turing構造<p465>
一般に拡散によって不均一性は減少し,次第に消滅していくが,拡散過程に反応を導入すると,ある特定の条件の下では不均一性が減少せずに,逆に増加して,安定なストライプや六方充填(ヘキサゴナル)の構造が形成することは,1952年にイギリスのAlan M. Turing(1912~1954)によって理論的に予測された。これらの構造をTuring構造と呼ぶ。反応拡散方程式において,構造形成を抑制する因子(抑制種,inhibitor)の拡散が,促進する因子(活性種,activator)の拡散よりずっと速いことが,Turing構造形成の主要な条件である。低分子系の場合,活性種と抑制種の拡散係数の間には大きな差がないため,Turingパターンが長い間観測されなかった。1990年に入って,対流の効果を取り除くために高分子ゲルを反応場として採用し,亜塩素酸塩,ヨウ化物,マロン酸の間に起こるCIMA(Chlorite-Iodide-Malonic Acid)反応において,活性種をデンブン分子に吸着させ,抑制種よりも拡散をずっと遅くすることにより,予測されてから約40年かかってようやくTuring構造の発現が実証された。 Kobunshi,Vol.58,P.477 (2009)

Tebbe型錯体<p87>
デュポン社のF. N.Tebbeは,シクロロビス(シクロペンタジエニル)チタンとトリメチルアルミニウムとの反応からメチリデン基がTiとAlの2つの金属原子に架橋したμ-メチレン錯体を高収率で単離した。この錯体はX-線結晶解析により構造確定され,一般にこれをTebbe錯体とよぶ。その後,TiとAlに架橋した種々のアルキリデン錯体が単離されており,最近では,前周期金属錯体と有機アルミニウム化合物との反応から生成する架橋アルキリデン金属2核錯体をTebbe型錯体とよぶことが多い。これら架橋メチレンおよびアルキリデン基は, いずれも求核性が高くwittig型反応やメタセシス重合に活性を示す。
Kobunshi, Vol.41 , p.98 (1992)

Thermochromism<p572>
一般には熱互変性,すなわち温度変化による可逆的な状態の変化を言うが,ここでは特に,結晶性の側鎖を持ったポリシラン,ポリゲルマン等の材料が温度変化によりUV吸収特性に変化を起こすことを意味する。結晶性の側鎖を持ったポリマーは,温度変化による側鎖の結晶化と結晶化部位の溶融の影響により高分子主鎖のコンホメーションを可逆的に変える場合がある。Si-Si,Ge-Ge等の繰り返し結合を主鎖に持った化合物はσ-σ*遷移と考えられる電子スペクトルを可視領域に有し,コンホメーション変化による軌道の重なり度合の変化に伴い吸収波長に変化を起こすため,この様な結合を主鎖に持つポリマーが結晶性の側鎖を持つ場合,上述の様に主鎖のコンホメーションの規則的な配列とランダムな状態が温度変化に応じて可逆的に起こり,これに伴い吸収スペクトルの変化が見られる。例えばポリ(ジ-n-ヘキシルシラン)では40°C付近に側鎖のTmが存在し,これ以下の温度では主鎖がジグザグ型に規則的にならび374 nm に吸収を示すが,加温によってこの吸収は消失し317 nm の吸収が増加する。 Kobunshi, Vol.42 , p.581 (1993)

TN-LCD,スーパ-TN-LCD(ねじれたネマティック液晶ディスプレイ)<p281>
本文図1(282頁)にTN-LCDの分子模型と動作原理が示してある。図2で棒状のものはネマティック液晶分子を示している。液晶層の厚さは6μm位で可視光の波長より大である。表面のラビング処理により上下で90°ねじられている。電圧の印加により旋光能を制御して偏光板の働きで光の透過率を制御する。このとき,1)表面で液晶分子を傾けておく(プレティルト)2)90°以下のねじれ 3)カイラル分子の添加の3項目を実施しないと欠陥(ディスクリネィション)が発生してしまう。  さて,スーパー(S)TN-LCDであるが,普通のTN-LCDのドットマトリックス表示では,時分割駆動または直接マトリックス駆動をするわけであるが駆動本数(列電極本数) が200を越えるとクロストークがひどくなりよい視認性が得られない。そこでねじれ角を180゜~270°とし,電気光学特性を急峻にしてクロストークを低減する方式がSTN-LCDで,1986年ごろから実用化され,ワープロやパソコンの表示などに用いられている。この場合,欠陥の発生を防止するにはプルティルト角を5°~20°位大きくする必要がある。 Kobunshi, Vol.43 , p.295 (1994)

TREF<p99>
物質の溶解度は溶媒の種類と温度によって決まる。一般に温度が高いほど溶解度は大きくなり,高分子の場合でも温度が高いほど溶けやすい場合が多い。したがって,シリカや海砂などの固定相の表面に試料を析出させ,温度を徐々に上げて溶けるものを順次溶出させると試料を分けることが可能となる。この分別方法は昇温溶出分別(Temperature Rising Elution Fractionation :TREF)と呼ばれている。  高分子は分子量や立体規則性の異なる種々の分子の集合体であるので,TREFを用いて分別することが可能となる。TREFにより分子量分別を行うことも可能であるが,分子量が数万を越えると溶解度の差が小さくなること,分子量分別はGPCにより容易に行うことができることのためあまり利用されない。ビニルポリマーは立体規則性の異なる分子の集合体であり,NMRやIRなどで分子全体の立体規則性の平均値が求められているが,その分布を調べる良い方法がなく,TREFは有望な方法として注目されている。特にポリオレフィンの立体規則性による分別やポリエチレンの分岐度による分別にTREFが広く用いられようになってきた。 Kobunshi, Vol.43 , p.112 (1994)