ポリワーズ た行 

ポリワーズ

〔た行〕


超分子ヒドロゲル<p674>
ゲルは,用語として曖昧な部分もあるが,たとえば,「高分子などが形成する三次元網目状構造のなかに水などの液体を含む物質の一つの状態で,柔軟物か固形物様の形状をしている」とされている。その中で,超分子ヒドロゲルは,低分子化合物や高分子化合物が分子間相互作用を介して形成する三次元網目状構造の中に水を閉じ込めた状態である。代表的な網目状構造例として,繊維状ナノ集合体の分岐あるいは絡まりによる三次元ネットワーク構造があげられる。網目状構造が分子間相互作用に基づくため、架橋点が可逆的な相互作用でできていることが特徴として挙げられる。そこで,ゲルの本来の性質(保水性,非流動性など)に超分子ナノ構造体に由来する性質(刺激応答性のチューニングや繊維状ナノ自己集合体の表面修飾など)を組み合わせることによる超分子ヒドロゲルをベースにした細胞培養担体やDDS材料などのバイオ材料開発が期待されている。 Kobunshi, Vol.58, P.682 (2009)

ディスタンスジオメトリー法<p628>
数学の分野において,個々の点の座標を任意の2点の距離から決定する命題のことをいう。この方法を利用し,NMRにおいて得られるタンパク質分子のプロトン間の距離情報(NOE)から,分子の立体構造を構築することが可能となってきている。しかし現実には,得られるNOE情報の質および量が十分とはいえないため,さまざまな工夫を凝らしたディスタンスジオメトリーの手法が考案されている。最も直接的な方法はメトリックスマトリックス法とよばれる方法だが,これをそのまま適用すると膨大な計算時間を要するため,経験的な制限を加えた“DISGEO’とよばれるプログラムが用いられている。もう一つの代表的な方法は“DADAS”または“DISMAN”とよばれるプログラムで,距離空間ではなく,可変な二面角の空間を用い,化学結合の距離や角度を固定し,設定した可変目的関数を極小化していくものである。それぞれ一長一短があるが,最近ではこれらの方法にシミュレ-テッドアニーリング(分子動力学計算法の変法)を組み合わせたやり方が多く用いられているようである。 Kobunshi, Vol.40 , p.639 (1991)

デジタル画像解析(Digital lmage Analy-sis,DIA)<p458>
画像情報を数値化し,各種の演算を施すことによって,画像情報を定量化し解析することをいう。高分子系に対して具体例をあげると,ポリマーアロイや高分子系複合材料などの電子顕微鏡像,光学顕微鏡像などを数値化し,二次元フーリエ変換を行って像のなかの規則性を抽出したり,粒子分散系であればその分散状態を定量化(粒度分布,粒子間距離分布,界面長分布,粒子重心の分散状態など)したりすることに対応する。この点で,S / N比(SignalとNoiseとの強度比)の低い画像の画質改善を主眼とする画像処理(lmage Processing)とは異なる’。実際には,画像処理した結果をさらに定量的に解析するのがDIAと呼んでよいであろう。高分子系の物性は,その高次構造によって影響されるので,DIAにより高次構造を定量化し,物性との関連を明らかにしようとする研究などが盛んになりつつある。また,DIAにビデオシステムを組み合せ,時間的に変化する構造の実時間解析(動的DIA)や三次元構造のDIAも試みられるようになり,現在急速に進展しつつある分野のひとつである。 Kobunshi, Vol.40 , p.470 (1991)

デンドリマー<p315>
ラシダムに分岐した天然および合成高分子として,アミロペクチンやポリエチレンイミンなどが知られているが,従来これら分岐高分子に対しては平均的な分岐度以外の分子パラメータを測定しうるキャラクタリゼーション手法も限られていたため,高分子構造の制御という観点からは注目されることも少なかった。しかし最近,Tomaliaらによって,ジアミンのアクリル酸エステルヘの選択性の高い逐次付加反応で,規則正しい樹状(デンドリック)構造を有する高分子が合成できることが示され,これが3次元的に堅固な空間構造を形成しうることから樹状分岐高分子(デンドリマー)は一躍注目を集めることとなった。これは,一般の屈曲性高分子の3次元構造が比較的フレキシブルなものであるのに対し,酵素や核酸にみられる堅固な3次元空間構造を構成しうるモデル高分子としてデンドリマーが有用と考えられるためである。堅固な3次元構造を形成しうる高分子として,最近,炭素60個から構成されるサッカーボール型の球状高分子が比較的容易に合成できることも示され,これら新しいタイプのモデル高分子の今後の展開が期待される。 Kobunshi, Vol.40 , p.334 (1991)

ドメイン形状制御<p399>
一般によく用いられる溶融混練法によるポリマーアロイのドメイン形状は, 各成分の体積分率,レオロジー的性質,界面の性質(相溶化剤を含む),混練条件および成形条件によって決まる。  微細な粒状ドメインを形成させるには,各成分ポリマーの溶融粘度をほぽ等しくし,相溶化剤を十分に効かせて高いせん断速度で混練することが有効である。  一方,扁平な層状ドメインを形成させるには,ドメインの溶融粘度をマトリックスよりやや高めにし,相溶化剤は少くして中程度のせん断速度(102s-1程度)で中空またはシート成形することが好ましい。また,ドメインポリマーが二種類の場合は,系全体の界面エネルギーがより小さくなる構造をとるので,ドメインを含む三成分間の界面張力を制御することによって,二重構造をもつドメインを形成させることもできる。  化学反応を伴うアロイ化の場合は,反応混練に伴う相溶化剤の形成,架橋およびそれに伴う相反転,重(縮)合による相分離等を制御することによって,多様な形状のドメインを形成させることができる。 Kobunshi, Vol.41 , p.410 (1992)

ダイナミックSIMS(DSIMS)とスタティックSIMS(SSIMS)の対比<p90>
SIMSは~10 KeV オーダのエネルギーの一次イオンを試料表面に当て,スパッ夕されてくる二次イオンの質量分析を行う高感度な表面分析法である。DSIMSでは一次イオンのドーズが1016ions/cm2以上の条件で行い,表面をスパッタして削りながらμmオーダの深さの微量元素(ppm~ppb)の濃度プロファイルを測定する。一次イオン種は金属元素に対してはO2+を,ぞれ以外はCs+を用い,それぞれ正イオン,負イオンを二次イオンとして検出する。SSIMSでは一次イオンのド-ズを1013 ions/cm2 以下の条件で行い,表面は削らない静的な表面分析である。表面の元素分析(ppm)に加えて化合物の構造情報をもつ分子イオンが検出できるため有機物の分析に有利である。従来四重極型質量分析器が用いられ,感度不足に苦しめられてきたが,高感度,高質量分解能の飛行時間型質量分析器が最近になって用いられ始め,新しい表面分析法としてめざましい展開が行われている。 Kobunshi, Vol.43 , p.112 (1994)

テレケリックポリマー<p90>
1960年に提唱された語で, 線状構造をもつオリゴマーで, 両末端に反応性官能基をもつものをあらわす。反応性官能基としては,水酸基,アミノ基,カルボキシル基,チオール基などがある。これらの官能基の反応によって,主鎖延長(2官能性連結剤を利用),架橋体合成(多官能性連結剤を利用),あるいは,ブロックコポリマーの合成などが可能となる。工業的にはABA型ブロックポリマーによる熱可塑性エラストマ-の製造や反応射出成形(RIM)の原料となる液状ポリマーとして重要である。 また,テレケリックポリマーの語は上記の定義よりも広く使われることがある。すなわち,線状オリゴマーで片末端のみに反応性官能基を有するものや枝わかれ構造(星形や櫛形をふくむ)をもつオリゴマーやポリマーで,枝の先端に反応性官能をもったものを指すこともある。テレケリックポリマーは,いわゆる,高分子の精密合成に有力な原料である。
Kobunshi, Vol.42 , p.112 (1992)

テロメリゼーション<p92>
この語は1942年エチレンのラジカル重合に関するdu Pont 社(米)の特許で提案されたものである。モノマーA(タキソーゲンという)が化合物YZ(テローゲンという)の存在下に重合し,テローゲンYZの構成要素が生成ポリマーの両末端にわかれて結合するような重合の様式をあらわしている。このとき生成するポリマーをテロマーと云い,多くの場合,低重合度体である.      nA  十  YZ   → Y-(-A-)n-Z   タキソーゲン  テローゲン    テロマー 重合化学の素反応としてとらえれば,テローゲンは連鎖移動剤にあたる。  テロメリゼーションはラジカル重合のみならず,アニオン重合,カチオン重合および遷移金属錯体触媒重合でも可能であり,末端反応性ポリマー(テレケリックポリマー)(上欄)の合成に有効に用いられることが多い。 Kobunshi, Vol.42 , p.112 (1993)

トポケミカル重合<p822>
 固相反応において,原系と生成系の結晶構造が変わらないで構造組成だけが変わるような反応は古くから種々知られており,Kohls-chutter1(1927)は,このような反応をトポケミカル反応と名付けた。一方,一世紀以上前から,ある種の共範ジアセチレン化合物が保存中に大きな色変化を示すことが知られていたが,Wegner(1969)はこの色変化をジアセチレンの結晶状態での1,4-重合に基づくものとし,これをトポケミカル重合と呼んだ。この場合,完全な単結晶モノマーがそのまま完全な単結晶ポリマーを与えるので,非常にユニークな重合といえる。重合により格子のパッキング(配列)状態は少し変化するが,その変化は重合という大きな化学変化にもかかわらず最少限であることからトポケミカル反応の一つと考えられる。このトポケミカル重合の最も重要なポイントは,原系(モノマー)の結晶格子中での分子のパッキング状態が重合性を支配し,さらにポリマーの構造および形態をも決めることである。すなわち重合が起こるための特別なパッキングが存在し,モノマー分子がそのパッキングをとらない場合はトポケミカル重合は起こらない。
Kobunshi, Vol.41 , p.833 (1992)

多形現象<p811>
一般に, 同一の化学組成を有する物質が2つ以上の異なる結晶構造や相構造をとりうる現象をいう。特に,両親媒性物質とよばれる物質は一つの分子内に親水性基と疎水性基を有し,水と混合すると,その水分含量や温度に応じて複数の相構造をもつ分子巣合体を形成する。糖脂質は水分含量によって多形現象を示す溶媒和型(リオトロピック)に分類できる。また,糖脂質一水分散液は固相状態(疎水部炭化水素鎖が液体状態ではなく,秩序正しく配列した構造)において,1個から複数個の準安定相をとるものが多い。特に,サンプルの熱履歴(サンプルの調製温度,昇温後の冷却放置温度,放置時間等)に応じて複雑な準安定挙動を示すのが特長である。糖脂質がある温度でどの相構造をとるかは,親水部糖鎖の水和能,疎水部骨格の分子構造,疎水部炭化水素鎖の長さ,疎水部の不飽和度および熱履歴などに大きく支配される。例えば,牛脳ガラクトシルセラミド-水分散液では液晶相Lとゲル安定相IIのほかにゲル準安定相Iが存在し,これら3つの異なる相構造聞でのL ? I→Ⅱ→Lの相変化が複雑な多形現象を与えることが知られている。 Kobunshi, Vol.41 , p.833 (1992)

対イオン凝縮(理論)<p320>
高分子電解質水溶液の浸透圧係数や対イオンの活量係数は,対応する濃度の低分子電解質溶液が示す値に比べて著しく小さな値を示すことが知られている(たとえ無限希釈の状態においても,これらの値は1には近づかない場合が多い)。これは対イオンの一部が高分子イオンの電荷を打ち消しているかのように見えるために,一般にion binding と呼ぶことが多い。これは文字通り結合しているのではなく,対イオンが高分子イオンの高い電荷密度のために高分子イオンの占める領域,特にごく近傍に強く引きつけられていることによるものである。もちろん,対イオンと高分子イオンの種類によっては,特定のsiteに結合することもある。前者を”Atmospherically trapped”,”Thermodynamic binding” または”territorial binding”などと呼び,後者を”site binding” と呼んで区別して取り扱う。通常,対イオンが1価の場合には前者,多価の場合には後者と考えられている。  理論的な取扱いは2つに大別される。第一は,棒モデルに対して Poisson-Boltzmann の式を適用したKatchalsky-Lifsonの理論である。このモデルでば対イオンはごく近傍に引きつけられるがその分布は連続的である。第二は,2つの領域(内相と外相)に分割して取り扱う大沢-Manningの理論である。このモデルにおいて外相の対イオンを気体分子と考えると,内相の対イオンが高分子イオンの近傍に凝縮相を作っているように見える。ここから,対イオン凝縮の概念が生まれた。この理論においては,電荷密度パラメータζが重要な役割を果たす。 Kobunshi, Vol.42 , p.330 (1993)

脱分化(dediferentiation)<p710>
生体を構成する実質細胞(parenchymal cell)は,生体内(in vivo)では器官特有の組織構造をとり,それぞれ固有の高度な機能を発現している。この状態を”分化状態”という。これに対し,組織を生体外(in vitro)に取り出して培養を行うと,一般的にその高次構造は消失し,細胞は単独となり増殖を始めてしまう。この状態の細胞は,組織レベルで有していた高度な生理機能を消失するか,有していてもわずかとなってしまう。このような細胞本来の機能の消失を”脱分化”と言う。この現象は生体内でも見られる。例えば,傷害を受けた組織において, 残った細胞が旺盛な増殖能を獲得しその器官を修復した後,増殖を停止すると共に機能を回復する過程も,一種の脱分化を経ていると考えられる。脱分化している細胞は活発に増殖している例が多く,組織から分離され,生体外で培養されている細胞は多かれ少なかれ脱分化している。この脱分化を阻止し分化機能を発現,維持させることのできる有効な細胞培養方法の開発が望まれている。 Kobunshi, Vol.41, p.722 (1992)

単分子包接ホスト分子<p815>
包接化合物とは「原子または分子が結合してできた三次元構造の内部に空間があって,そのなかに他の分子が入りこんで特定の構造を形成している物質」と定義されている。空間を形成する化合物の方がホスト分子,空間に入りこんでいる分子がゲスト分子と呼ばれているが,ホスト分子とゲスト分子を厳密に区別するのが難しい場合もある。包接化合物は 主に格子間包接化合物と単分子的包接化合物に大別される。格子間包接化合物とは尿素,チオ尿素, ペルヒドロトリフェニレン, デオキシコール酸などをホスト分子とした包接化合物の場合で,ゲスト分子はホスト分子の結晶格子間にとりこまれる.したがって溶液中では包接化合物は形成されない。それに対してシクロデキストリンやクラウンエーテル,シクロファン,カリックスアレンなど環状のホスト分子の場合,一つの分子の中にゲスト分子をとりこむ空間が存在するために,結晶状態だけでなく,溶液中においてもゲスト分子をとりこむことができる。このようなホスト分子を単分子包接ホスト分子と呼ぶ。 Kobunshi, Vol.41 , p.833 (1992)

炭化ケイ素繊維<p78>
炭化ケイ素は融点2,700℃以上,空気中でも1,000℃以上まで安定であり化学的にも不活性なため優れた耐熱材料として知られている。しかし,ダイヤモンドに匹敵する硬度をもつため加工性に乏しく,その利用は研磨剤などに限られていた。しかし,1975年東北大学の矢島らにより,この炭化ケイ素を繊維化する画期的なプロセスが開発された。このプロセスはポリジメチルシランを熱分解し,セラミックス化するものである。しかし実際にはこのポリマーは溶媒に不溶で融解もしないため, 繊維の直接的な原料には不向きである。そこでポリシランを一且500℃程度に加熱して,ポリカルボシランに変換後,溶融紡糸する。その後,空気中で加熱することにより不融化し,さらに不活性雰囲気下1,200℃以上の高温で処理することにより炭化ケイ素繊維が得られる。このプロセスは日本カーボン(株)で工業化され,炭化ケイ素繊維「ニカロン」として製造・販売されている。炭化ケイ素繊維は軽量で,超耐熱性,高強度,高弾性,耐酸化性を兼ね備えているばかりでなく,他の材料との適合性もよいため複合材料の強化繊維としても注目されている。 Kobunshi, Vol.41 , p.98 (1992)

弾性繊維<p662>
一般にゴム状弾性を示す高弾性繊維のことで,架硫のような化学架橋構造を有する天然ゴム、合成ゴム系のものと,熱的に可逆な物理架橋構造を有するポリウレタン系あるいはポリエステル系のものとがある。前者は非可逆の網状結合をとり,後者はブロックポリマーの結晶化が架橋の役割を果たしている。後者の代表的なものとしてスパンデックス(spandex)がある。スパンデックスはウレタン結合を有する連鎖が,繊維を構成する化学構造の80%以上含むものとされている。  スパンデックスはポリオール成分でエーテル系とエステル系に大別される。構造的には、ガラス転移温度が室温以下の屈曲性に富むソフトセグメントと,強い分子間力によって結晶構造を作るハードセグメントからなるブロック共重合体である。特性はゴム状弾性に代表され通常は5~7倍に仲びる。その用途としては婦人用下着,水着,くつ下,スポーツ用衣料,その他広範に用いられている。spandexはexpandの綴りを入れ換えて作られた名前 ともいわれているが,仲ばすことのできる感覚をよく表現している。 Kobunshi, Vol.42 , p.692 (1993)

超変形ゴム弾性現象論<p478>
架橋ゴムの弾性は高分子物理学にとって非常に重要な間題である。1軸伸張では,伸張比λ=L/L0と張力の平衡値fとの関係はMooney-Rivlinの経験式がよく成立する。しかしこれも200~300%程度の変形である。  ところが糸曳き形態のように2軸伸張の場合,これを遥かに越える変形量となるためMooney-Rivlinの経験式が成立しない(粘着剤は一般に1000~2000%の破断伸びを有している)。このような有限変形の領域では応力と歪みの関係式は非常に複雑なものとなる。一般には,歪みエネルギー密度Wを用いて解析されており,0gden1)が6パラメータを用いた式を提案している。また、このような超変形の領域の解析に有限要素法が用いられるようになっており,Batheら2)によりOgdenの式を用いたソルバー(ADINA)が開発された。 1)R.W.0gden:Rubber Chem.Technol,59,361(1986) 2)T.Sussman,K,Bathe : Computers&Structures, 26,357(1987)Kobunshi, Vol.43 , p.482 (1994)

低圧逆浸透膜<p468>
従来の逆浸透膜は海水など高濃度塩溶液から純水を得る目的で使用され,原水の浸透圧が高いために40~50気圧の圧力を加える.一方,最近,半導体工場で多量に使用されている洗浄用超純水は,市水や地下水を原水とするため浸透圧が問題にならず,塩などの低濃度溶質を低圧力で除くことが目的となる.そこで開発された膜が低圧逆浸透膜で,通常,10気圧以下の低圧力で用いられる.  低圧逆浸透膜は,ポリスルホン限外炉過膜の表面に溶質阻止能を有する緻密な超薄膜を界面重合法で製膜したもので,このような構造の膜は複合膜とよばれる.緻密膜が極めて薄いため透過抵抗が小さく,低圧力でも大きな膜透過量が得られる.現状では界面重合は平膜でしかできないため,中空糸複合膜はない.表面超薄膜の素材は全芳香族系架橋ポリアミドが一般的である.実際にはカルボキシル基やアミノ基が少量反応せずに残るため,多くの低圧逆浸透膜は荷電性を有し,このため低濃度の塩に対して高い阻止性を示すと同時に,一価/多価イオンの分離も可能である. Kobunshi, Vol.41 , p.484 (1992)

電気光学ポリマー<p273>
一次の電気光学効果(いわゆるポッケルス効果:物質に電界を印加した際,物質の屈折率が変化する現象のひとつで光変調,光スイッチヘの適用が可能)を有する高分子材料をさす。ポッケルス効果は二次の非線形光学効果の一つであるため,物質の反転対称性がないことが必要条件となり,通常の非晶質の高分子では電気光学効果は示さない。このため,二次の非線形性の大きな分子(例えば,π共役系に電子吸引基,供与基を付与した色素)が化学的に結合,あるいは分散している高分子をTg付近まで加熱して高電界をかけ,非線形分子を配向させたまま冷却することにより,反転対称性を崩し,電気光学ポリマーとする方法が作製法としてよく用いられる。こうした電気光学ポリマーの特長としては,従来の無機材料のポッケルス材料に比較して,電気光学定数が大きいこと,誘電率が低く高速応答が可能なこと,加工性に富み光導波路化しやすいこと等があげられており,最近,欧米を中心として材料開発,光素子作製に関する研究が非常に盛んになっている。 Kobunshi, Vol.43 , p.295 (1994)

電子吸引性基を有するスチレン誘導体<p903>
ベンゼン環の一部が電子吸引基で置換された一連のスチレン誘導体である。電子吸引基の置換基として,N-アルキルイミン,三級アミド,オキサゾリン,エステル,シアノ基などをスチレンのパラ位に導入すると,それらの電子吸引効果によりビニル基の電子密度が著しく減少し,モノマーの親電子性が増大する。実際にいずれのモノマーもスチレン誘導体にもかかわらず,2-ビニルピリジンやメタクリル酸メチルに匹敵する高いアニオン重合能を有していることが見い出されている。 一方,生成したポリマーの成長鎖末端カルバニオンは、置換基の電子吸引効果により電子密度が減少するため求核性が低下し,成長鎖末端カルバニオンと,電子吸引基の共存が可能となる。その結果,上記の電子吸引基の置換基を有する一連の新しいリビングポリマーが生成する。得られたポリマーは,分子量がモノマーと開始剤のモル比で規制でき,分子量分布は狭く,さらにスチレン,2-ビニルピリジン,メタクリル酸メチルと構造の明確なブロック共重合体が合成されている。 Kobunshi, Vol.42 , p.932 (1993)

動的架橋<p244>
1971年にユニロイアル社のニニ1ニパアル社のW. M. Fisherらがモノオレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂を有機パーオキサイドの存在下,溶融混練することにより,ゴムを部分架橋したオレフィン系熱可塑性エラストマーを製造する方法を開発した際,「動的」架橋という表現を用いたのが始まりである。通常,ゴムの架橋(加硫)は,生ゴムにバンバリーなどで架橋(加硫)剤を配合し,次いで賦形した後,形状を保持しながら高温下で架橋反応を行う,いわゆる静的架橋である。これに対しユニロイアル社のプロセスは溶融混練状態で架橋を行うため動的架橋といわれる.その後,この技術は,1978年にモンサント社のA.Y.Coranらにより結晶性ポリオレフィン樹脂とモノオレフィン共重合体ゴムを溶融混練しながらゴム成分を完全に架橋させその架橋ゴムをマトリックス(樹脂)中にミクロ分散させる技術を開発したことにより,内容もより深く,幅広いものとなった。現在,モンサント社はオレフィン系組成物に限らず,各種の熱可塑性樹脂と各種のエラストマーの組を合わせにおいて,動的架橋技術を応用展開している。(本誌編集委員)斉藤貞夫 Kobunshi, Vol.40 , p.260 (1991)

直接遷移型と間接遷移型バンド構造<p805>
直接遷移型半導体は,同一運動量空間において,電子が価電子帯上端と伝導帯下端を運動量変化をともなうことなく遷移できる系であり,高い吸収係数をもち,光励起した電子・正孔対は高効率で再結合・発光できるため発光素子には直接遷移型半導体が広く用いられている。GaAsが代表例である。一方,間接遷移型半導体は,価電子帯上端と伝導帯下端が異なる運動量空間に属し,遷移には格子(熱)振動エネルギーの授受を必要とするため,吸収係数は小さく明瞭な吸収ピークをもたず,発光効率もきわめて低い。そのため,太陽電池や発光デバイスには不向きとされる。結晶シリコンが代表例である。低分子有機化合物はx,y,z方向に波動関数を閉じ込めた量子箱に例えることができる場合が多く,それらのHOMO-LUMO遷移は直接遷移型に分類でき,強く明瞭な吸収ピークと強い発光ピークを示す。また,無機半導体のナノ微粒子化は量子箱(量子ドット)を指向したものである。一方,鎖状高分子は主鎖軸方向に波動関数を閉じ込めた量子細線(一次元半導体)とみなすことができるが,それらが直接遷移型か間接遷移型のどちらの性質を示すかは主鎖二面体角や結合角などに依存する。 Kobunshi, Vol.58 , p.809 (2009)

電気光学変調器 <p317>
電気光学変調器とは電位を印加することにより光の位相や強度を変化させ,電位信号を光信号に変換する高速光伝送に必須のデバイスである。電気信号を光信号に変換する際は半導体レーザーの注入電流を変化させることにより光出力の位相や強度を変化させる直接変調方式と光変調器による外部変調方式がある。半導体レーザー直接変調方式は,安価で小型であるが,チャーピング(活性キャリア変動にともなう光出力波長変動)により,数GHz以上の高周波変調に対する応答が困難であるため,光通信などの高速光伝送には外部光変調方式が使用される。電気光学変調器はニオブ酸リチウム等非線形光学材料のポッケルス効果(電位印加により材料屈折率を高速変化する効果)を利用する外部光変調器の代表である。この屈折率変化は,材料を透過する光の位相を変化させ,印加電位信号を光位相信号や光強度信号に変換する。その他の光変調器としては電界吸収変調器,音響光学効果,磁気光学効果,熱光学効果を利用した方法があるが,いずれも数GHz以上の光変調帯域幅(3 dB減衰値)を得ることは困難である。 Kobunshi, Vol.59 , p.329 (2010)

タッキファイヤー<p917>
タッキファイヤーは粘着付与剤ともいい,ゴムやプラスチックなど高分子に添加し,これらの高分子と相溶して,粘着性を付与させる配合剤である。その種類としては,ロジン系樹脂,テルペン系樹脂,石油系樹脂などの粘着付与樹脂,可塑剤,油脂類などがある。粘着剤の分野では,接着力,粘着性を与えるためにおもに粘着付与樹脂が使われ,樹脂の種類,添加量,相溶性が要求物性にとって重要となる。また,粘着付与樹脂は接着剤の接着力の向上のためにも使われ,とくにホットメルト接着剤の配合剤として重要である。このほか,ゴム工業ではゴムの自着力の改善,インキ工業ではインキのタックの向上に使われている。 Kobunshi, Vol.59 , p.921 (2010)