界面活性剤水溶液には,ひも状ミセルが形成されそれらがからみ合って粘弾性を示すものがある。その溶液の弾性率は界面活性剤濃度cの2乗に比例し,高分子溶液のからみ合いと対応する。一方,からみ合いが解けて溶液が流れる緩和時間はcによらなかったり,c増加にともなって短くなることもあり,高分子溶液の挙動とは異なる。興味深いのは,緩和時間に分布がなく,一つのMaxwellモデルであらわせることである。これらの特徴を合理的に説明するために,ミセルが分子間力でできた動的な構造体であることを考慮して提案されたのが「幽霊通り抜けモデル」である。このモデルでもひも状ミセルのからみ合いが応力を支えるが,ミセル構造に依存した平均寿命の後に(界面活性剤分子の移動によって)ミセル同士が幽霊のように通り抜けるか交換されて,からみ合い点が消滅して溶液は流れる。似た言葉の別の重要な概念もある。からみ合いを起こさずに,互いに自由に通り抜けられると仮定された高分子鎖を「幽霊鎖」といい,ゴム弾性の議論に用いられる。また,ゴムに与えたひずみに応じて架橋点がaffineに移動するだけでなく,空間的にゆらぐと考えるのが,「幽霊網目モデル」である。これは架橋点が空間に固定されるとしたゴム弾性論よりも低い弾性率を与える。Kobunshi,
Vol.59 , p.709 (2010)
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