高分子ミセル Polymer Micelles

特集号「高分子ミセル」の発行にあたって

 石けんや洗剤のような低分子の界面活性剤に関する研究は古くから行われており,実社会においても,さまざまな分野に応用され,もはや必需品となっています.それに比し,高分子界面活性剤(両親媒性高分子)は,最近,本格的な研究が始まったばかりの段階と言えると思われます.これは,鎖長や鎖長分布が揃った,すなわち構造のよく規制された両親媒性高分子を合成することが困難であったことが大きな原因の一つと考えられます.しかしながら,近年の高分子合成技術の飛躍的進歩により,この問題が解決されはじめ,様々な鎖長および鎖長比を有する分子量分布の狭い両親媒性ジブロックおよびトリブロックコポリマー等が合成され,その性質が調査されると共に,塗料や印刷,薬物輸送など,工業的応用も図られるようになってきました.それに伴い,高分子ミセルに関係する論文の数も飛躍的に増加しています.

 本特集は,従来まで,どちらかといえば単発的,すなわち,合成,物性,応用それぞれの部門で別個に論じられることの多かった,高分子ミセルの研究を,近年の飛躍的発展を背景に,それらを包括的に眺め,体系的にまとめてみる機会を得るために,企画,立案されたものです.

 本企画にご賛同いただき,投稿された多くの論文に対し,通常の審査を行った結果,総合論文6報,一般論文12報の合計18報の報文が,本号および6月号に掲載される運びとなりました.内容的にも,企画の趣旨に沿い,新規両親媒性高分子の合成および合成法,ミセルの構造解析と溶液物性・ダイナミクス,ミセル形成の理論,刺激応答・包接挙動など機能発現,そして生化学的応用まで,広い範囲をカバーした特集とすることができました.高分子ミセルに関する研究の現状を把握し,今後の研究に生かすことのできる特集号,そして,今後のこの分野のさらなる発展,基礎研究の充実,さらには工業的・実用的応用の加速に結びつく特集号となったと考えております.

 末筆ながら,本特集号の刊行に当たりましてご投稿いただきました多くの著者の皆様,企画段階より貴重なご助言を頂いた先生方,さらには論文審査にご協力くださった先生方に深く感謝いたします.

(文責 松岡秀樹)

(担当委員 関 隆広,萩原時男,松岡秀樹,八尾 滋)