高分子は直径がナノメートルオーダー程度という極細の鎖状物質で、他の物質には見られない特異な形態を有しています.鎖状であるために,1本の高分子がとりうる形態がきわめて多彩なだけでなく,高分子が集合したときにとる配置の数も無制限に考えられます.高分子の物性は,このような高分子の形態や配置,すなわちナノオーダーの幾何学的構造にきわめて強く影響されます.このため高分子系のナノ構造と物性・機能は,高分子化学・工学分野の中心課題の一つとして従来より活発に研究が行われてきました.特に最近では,国内外においてナノテクノロジーが国家レベルで取り上げられ,社会的にもきわめて大きな注目を集める情勢に呼応し,高分子系においても新規なナノ構造や物性・機能に関する研究が急速に広がりつつあります.また,走査型プローブ顕微鏡などに代表されるナノオーダーの分析手段の飛躍的な進歩により,複雑なナノ構造の直接観察が可能となったことも,当該研究領域の急速な進展に拍車をかけています.しかし,ナノ領域における構造と物性・機能の相関を完全に理解し,それを制御するにはまだ多くの努力を要するものと思われます.それには,従来の枠組みを超えた横断的で新しいアプローチと斬新な発想が強く求められています.
今回の特集号は,急速な展開をみせるとともに,これまでの未解決問題が明らかにされつつある高分子系のナノ構造と物性・機能を包括的に議論することを目的として企画しました.
|