S1.リビングラジカル重合の基礎、応用、工業化まで |
(名古屋大学大学院工学研究科)上垣外 正己 |
<趣旨> リビングラジカル重合は1980年代にその端を発し、1990年代に入ってニトロキシド、遷移金属錯体、可逆的連鎖移動剤などを用いた種々の重合系が次々と見出され、分子量などの精密制御を可能としてきた。そして、この約10年間でさらに大きな発展を遂げ、精密高分子合成の一般的手法になりつつあり、さまざまな分野へ波及効果を与えている。 例えば、重合系の発展では、反応制御剤、触媒、移動剤の設計・改良や新しい重合系の開発に基づく制御能の向上、重合の加速化、触媒量の低減、触媒の担持化、適応モノマー範囲の拡大がなされ、開始剤系はさらなる進化を遂げている。これらの発展には、ドーマント種-ラジカル種の概念の確立、速度論、ESR、散乱法などによる重合機構の解明や、有機化学、有機金属化学、計算化学などからの知見が貢献している。 一方、ラジカル重合の立体構造制御については、モノマー、溶媒、添加物の設計などにより可能となり、広い意味での重合制御が可能となってきた。さらに固相、テンプレート、メゾ・ナノ細孔などの特殊な反応場を用いることで、分子量と立体構造などのさらなる精密制御において新たな展開が期待されている。また、分散系、乳化系、超臨界CO2、超高圧下、マイクロリアクターなどの反応場もリビングラジカル重合に適用されている。 精密高分子合成に関しては、末端官能性、ブロック、グラジェント、グラフト、星型ポリマーや、さらなる特殊構造ポリマーが、種々のモノマーから合成されている。また、配位・イオン重合における他のリビング重合や重縮合・重付加などと組み合わせることで、これまでにない新たな精密制御構造ポリマーが合成されるようになってきた。 これらの精密制御高分子は、さまざまな分野への波及効果があり、他分野との融合も重要となってきた。例えば、ミクロ・ナノ相分離構造やミセル構造などの高次構造制御や光・温度応答性部位の導入による機能材料、シリカ・金属・金属酸化物・炭素微粒子、カーボンナノチューブなどの異種化合物・材料表面からのグラフト重合による新規材料、バイオコンジュゲーションによる医用材料への応用へと展開されている。 工業的には、シーラント剤、熱可塑性エラストマー、界面活性剤、接着剤、分散剤、高分子固体電解質、光・電子材料への応用が検討され、工業化に至っているものもある。 以上のように、本特定テーマでは、「リビングラジカル重合」をキーワードとして、重合系の解析・設計・開発、高分子合成・構造・機能・物性、応用、工業化といった幅広い分野からの研究者が介して議論することで、今後の高分子化学の発展に結びつけたいと考えています。 |
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