<趣旨>
超分子化学(supramolecular chemistry)は天然物、合成大環状化合物、クラウンエーテル、クリプタンドによるアルカリ金属の選択的結合に端を発し、その概念と用語は1970年代後半にフランスのJ.-M. Lehnによって初めて導入された。超分子は複数の分子が弱く相互作用して形成され分子集合体で、その成分を結びつける分子間相互作用(非共有結合)の特性によって特徴づけられる。分子間相互作用とは水素結合、van der Waals力、静電相互作用、π‐π相互作用、ドナー・アクセプター相互作用、配位結合などの非共有結合である。それらの強さは弱い・ほどほど・非常に強いまで様々であり方向性を有し、距離と角度への依存性を示すため、化学者は超分子の設計を積極的に行うことが可能である。
一方、前世紀のはじめ頃、セルロース、デンプン、タンパク質、ゴムなどの天然高分子は、基本体が二次的な結合(今日で言うところの非共有結合)で多数会合して高分子のようなコロイド的挙動を示すという「ミセル説」が支配的であった。この考えを真っ向から否定し「主原子価結合による巨大分子説」を唱えたのがH. Staudingerであり、1926年のドイツ化学会で巨大分子説をめぐって大激論が交わされたことは有名である。今日では高分子が共有結合で繋がった巨大分子であることは誰もが知っているが、しかし希薄溶液中のポリマーの分子間相互作用は全く存在しないわけではないこともまた私たちは知っている。そして現在、分子間の非共有結合によって高分子のようなコロイド的挙動を示す超分子集合体が多数報告されており、H. Staudingerの巨大分子説を常識として受け入れる高分子科学の研究者は超分子化学をも容易に理解できる立場にある。
本特定テーマでは高分子学会としてはじめて「超分子化学」をキーワードとして特定セッションを設けました。超分子集合体の合成、構築、諸物性、応用などに興味を持つ研究者が会して、超分子化学と高分子の融合領域につながる討論をしたいと考えています。
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