S8.高分子の結晶化と「高性能化」をめざして
(広島大学大学院総合科学研究科)彦坂 正道
<趣旨>
 本特定テーマの目的は,高分子の結晶化分野の現段階と課題を明らかにし,高分子材料が潜在的に持っている「高性能」を実現していく上で,成形加工、レオロジー、物質開発分野が直面している問題点と展望を明らかにすることである。
 高分子は巨大なひも状分子である。よって,高分子鎖を「伸長」するような外場によって,高分子鎖の3次元形態や絡み合い,滑り拡散等は著しく変わり,核生成・成長・モロホルジーが激変し,成形した製品特性が決定されると考えられる。このようなトポロジー的本性を持つ「結晶化・成形過程」を解明し,それを応用した新成形法を構築して「高性能高分子材料」を創製することは,今日の重要課題である。
 高分子材料は、世界年産量が2億数千万トンで,体積比較では鉄を越し,あらゆる産業と生活で利用されている。しかし,高分子材料が持つ,金属に匹敵するような本来の「高性能」は未だに実現できていない。「高性能」を実現するためには,高分子の結晶化分野と,成形加工、レオロジー、物質開発の関係諸分野が有効に結合して,上記の「トポロジー的結晶化・成形過程」を解明することが必要である。
 高分子材料の持つ利点である軽量,高成形性,安価,高リサイクル性等の長所が「高性能化」によって活かされるならば、現代社会の課題である省エネルギー化、低コスト化、クリーン環境化、省資源化等による「持続可能型社会づくり」に重要な貢献が出来るであろう。こうした観点から見ると,全生産量の2/3以上を占めながらも低性能にとどまっている汎用高分子材料の「高性能化」は特に重要である。
 最近,結晶化の"その場観察"による研究は,放射光やAFM等の新しい武器を駆使することにより,著しい成果を上げてきた。永年困難であった核生成の直接観察もその一例である。核生成と成長,そして高次構造形成の「分子レベルでの実体」が明らかに出来る段階にさしかかってきた。結晶化研究は最近、静置場の成果を踏まえて、謎の多い流動場の研究へと発展してきている。成形加工やレオロジーの分野でも「高性能化」をめざした新展開が活発に行われている。高結晶化や高成形性を実現する高分子物質開発分野も新展開を見せている。
 本特定テーマでは、高分子の静置場における結晶化、流動場等の外場における結晶化、成形加工やレオロジーの新展開、高分子物質開発の新展開に関する研究に興味をもつ研究者に分野を超えて一同に会していただき、特に結晶化と「高性能化」の結合を意識した観点から,「高性能高分子材料」創製につながる討論をしていただきたいと考えています。
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